高雄空港にて、旅は終わりゆく
こんなに肩の力の抜けないマッサージは初めてだ
とにかくマッサージを受けたい。
これが私とY田さんの台湾に対する最後の希望だった。
南台湾、最後の晩餐はY田さんこだわりの火鍋料理を心行くまで堪能し、もうやり残した事は何もないかのように思われた。
しかしながら、人の欲とはどこまでも尽きぬモノで、町の中にチラホラと存在するマッサージ屋、これが我々の欲をくすぐり出したのは最終日の夜遅く。
時間的に、夜はマッサージを受ける事は叶わなかった。
僅かな心残りを感じながら、T君に見送られ、搭乗ゲートを潜る。
大きなハプニングに始まり、あっという間の4日間だった。
台湾を離れ、日本に戻る。そしていつも通りの日常に帰ってゆく。我々のリアルは台湾にではなく、日本にあるのだから。
税関を抜けた後、少し遅めの昼食を摂り、搭乗時刻を待つ。
時間は十分にある。私は喫煙室に向かい、Y田さんは台湾ドルを残すのがもったいないらしく、お土産屋さんへ。
店長さんは行きの失敗から。すっかり怖気づいてしまい、搭乗ゲート付近から動かない。
私は喫煙後ぶらりと周辺を観覧。
その時だった。マッサージの文字が私の目に飛び込んできたのは。
駆け足でY田さんの元に行き、マッサージ店があることを伝える。
私とY田さんに迷いはなかった。
まだ時間はある。とりあえず一番短い10分コースを受けよう。
店長さんを誘ってみるが、行きの失敗が完全なトラウマと化し、搭乗直前でマッサージなど受ける気はさらさらないようである。
私とY田さんは行きの失敗から何も学んでいない訳ではないのだが、なんと言えばいいのだろうか、まぁ簡単に言うと、とにかくマッサージが受けたいのである。
腹部側からもたれ掛かり、顔をうずくめる形のマッサージチェアに二人並んで、もたれ掛かる。
タイマーのスイッチを押す音が聞こえ、マッサージ開始。
それと同時に、店の入り口付近から店長さんの声が、「搭乗開始したよー。」
今から僅か10分だ。問題ないだろう。
頸部から腰背部に至るまで、丁寧な施術が行われる。いわゆる痛気持ちいい、というやつだ。
筋肉が少しづつほぐされていく感覚と、眠気が交じり合い、意識が遠のく。全身がポカポカと温まり出しているのがわかる。
気持ちいいな。そういえば搭乗は開始しているのだ。
なんだか不安になってきた。すぐそこだし、大丈夫、大丈夫、自分に言い聞かす。
私の不安は筋肉の緊張を生み、即座にマッサージ師に伝わる。「リラックス。リラックス。」マッサージ師が言う。
私は隣のY田さんに声をかける。「時間大丈夫ですかね?」
「行けるやろ、今何時や?」顔がうずくまり、時刻はわからない。「見えません。」と私は答えた。
Y田さんがマッサージ師に言う、「フライトタイム、ドンウォーリー?」
「ドンウォーリー。」とマッサージ師。
信用していいものなのか、マッサージ師は飛行機の搭乗システムをどこまで理解しているのだろう。
Y田さんが私に言う。「10分ってこんなに長いか?」
確かに僅か10分をここまで長く感じる事はなかなかない。私とY田さんはここにきて、行きの血の気が引いた経験を脳裏に蘇らさせたのだ。
「人は戦争から何も学ばない」そんな先人達の言葉は正しいようだ。
とそこで、タイマーが鳴り響く。これで飛行機に乗れる。
顔を上げようとするとマッサージ師が頭を優しく抑えて、もう少し待ての合図。
この状況下でサービスをしてくれるらしい。もういい。頼むから終わってくれ。
マッサージ師のこだわりなのか、なんなのか、仕上げをしないと気が済まないらしい。仕上げに手のひら全体で背中を叩かれる。
その背中を叩く勢いが、私を無事に日本へと送り届けてくれる追い風になる事を、願わずにはいられなかった。
ようやく全ての工程が終わり、料金を支払う。マッサージ師が奥から暖かいお茶を持ってやってくる。
落ち着いて飲める状況ではない。味わうことなく、喉に流し込み、「シェイシェイ。」
Y田さんと搭乗口に向かうと、まだチラホラと人が乗り込んでいく状態だった。
これで日本に帰れるのだ。機内に乗り込み、席を探すと、店長さんが着席状態。
焦りを悟られたくない私とY田さんは、余裕の笑みを作り、席に落ち着いた。
偏西風の影響で帰りは速い、僅か2時間半。寝る間もなく、関西国際空港に到着。
迎えに来てくれていたY田さんの奥さんも合流し、旅の珍道中を笑いあう。
空港で再会し空港で別れを告げる。
旅は終わりゆくのだ。
寂しいけれど、終わりがなければ旅ではないのだろう。
そして。それぞれが、それぞれの日常に戻って行くのだ。
この場を借りて・・・
本当に楽しくいい思い出になりました。Y田さん、店長さん、ガイドのT君、行きも帰りも3人を優しい笑顔で見届けてくれたY田さんの奥さん、心からありがとうございました。
そして、店長さんの奥さんのブログの力で、思いがけずとても多くの人に、私のつたない文章を読んで頂き、改めて、奥さんのブログの偉大さを感じました。
皆さん、どうか読んだらすぐに忘れて下さい。
P.S. 仕事復帰初日の今日、電車が霧の影響で遅れ、乗り継ぎを猛ダッシュしました。間に合って良かった。今年はギリギリだけどなんとかなる年になりそうです。
aloha shigeru!!!