南台湾にて、強い先輩方と旅が出来る私は幸せである
南台湾のメインポイント、佳楽水(チャーロースイ)
高雄から三時間、走るにつれて高いビルが消え、ネオンの明かりがなくなり、明らかな田舎道に移り変わって行く。
一車線の国道、片側は山、もう片側は海。
夜だったこともあり、田舎がより一層、何もない場所のように感じられた。
宿泊先に到着したのは十一時を過ぎたあたり、それぞれの荷物を運びこみ、僅か二日間のマイルームを築き上げる。
Y田さんはダブルサイズのベットに、最年長の特権である。店長さんはあまりに自由が目立つので一人別室へ。
私はY田さんのベットの横に簡易的に取り付けた高さ30センチほどの追加ベットに落ち着いた。
低い位置の方が落ち着く私は意外とこの簡易的なベットが気に入り、この二日間私の睡眠を快適にサポートしてくれた。
空港でのドタバタ劇から始まり、日本から、異国の地台湾にやって来た。窓の外から聞こえる波の音、すぐそこに海がある。
電気を消して、暗闇の中で感じる海。
波は遥か沖から長い旅をしてきて、陸に当たり、弾ける。
この地球上の絶対的で不動な自然現象。これを遊びにした人間もなかなかクールだ。
人間どもが過ちを犯しているのは間違いない、この地球に対して間違いなくお荷物な存在、それでもたまにこんなエキサイティングな遊びを思いつくのだから、捨てたもんじゃないのかもしれない。
明日は6時起きだ。Y田さんも店長さんも朝は強い。
朝一からいい波に乗りたいと思う興奮と、眠るために必要な心の静寂は相反するモノだから、睡眠の難しさを感じる。
置いてきぼりをくらわないように、少しでも眠っておかなければならない。
そんな言葉遊びを頭の中で繰り返し、夢の中にまどろんで行くのだった。
サーフポイント、佳楽水(チャーロースイ)
鶏の鳴き声が響き渡るという、絵にかいたような朝がやってくる。
6時の目覚ましで立ち上がり、テラスから波の状況を確認する。
波はしっかりある。風が吹いているのはよろしくないが、大きな影響はなさそうである。
南台湾のメインポイントとなる佳楽水(チャーロースイ)、山に囲まれる形で湾となっているこのポイントは年中波があり、海を中心にサーファー向けの民宿や飲食店が立ち並ぶ。
周辺の住人もサーファーが多く、ボルコムやビラボン、女性はロキシーといったサーフブランドを身に付けている人が多い。
この町もおそらくは挨拶替わりに「波はどう?」なんて事を言い合っているのだろう。
海と波、そしてサーフィン。これらを中心とした暮らしが築き上げる世界、店長さんの日常もまさに同じようなモノである。
生まれも育ちも、四国の某メジャーポイントの目の前。人生のほとんどを海とサーフィンに囲まれて生きてきた。
私とY田さんは完全に都会の人間。それぞれの目で佳楽水(チャーロースイ)を見た時にその映りようはどのように違うのだろうか。
空に舞ったサーフボードとダイソーの偽物クロックス
初日は一日サーフィンを満喫し、3ラウンドの入水。
サーファーの間では一度海に入る回数をラウンドという言い方で呼ぶ。
二日目の朝、その日の1ラウンド目で事件は起こった。
その日は風がとても強く、突風という言い方が相応しいだろう。
ガイドのT君を先頭に浜辺に到着。それぞれに準備運動を行う。
私と店長さんは並んで座り込み、雰囲気だけでもストレッチ。
とその時だった。とてつもない突風が吹き付け、座っているのにも関わらずバランスを崩しそうになる。
見上げた空に二枚のサーフボードが、私と店長さんのサーフボードは空高く舞い上がり、単独エアー。
万事休すだ。サーフボードはとても軽い。海に浮かべて人が乗るわけだから、その浮力は想像出来るだろう。そしてあまりにも、もろい。
空高く舞い上がり、落下したことによる破損具合は目も当てられない有様と考えられる。
そして二枚のサーフボードと共に、緑色の物体も舞い上がった。
あれは、私が旅の前に100円ショップダイソーで購入した偽物クロックスではないか。
空高く舞い上がる、二枚のサーフボードと偽クロックス。
と同時に落下。偽クロックスは軽量化が行き過ぎているため、さらに飛ばされて行く。
大変だ。この先、台湾で履くサンダルがなくなってしまう。いや、サンダルなんどどうでもいい。問題はサーフボードだ。
私と店長さんはそれぞれのサーフボードをなんとか抑え込み、破損を確かめる。
意外にも店長さんのサーフボードは無傷。本当に無傷なのかどうなのか、ただ気にしていないだけのような気もするが。おそらくは破損していたとしても、店長さんの心の破損は全くないと考えられる。
気にしない、というのはとても強靭な事なのだ。私も見習わなければいけない。
私のサーフボードはそこそこの損傷を受け、普通ならこのまま海で使用する事は考えられない。
意外に神経質な心を持つ私は、すぐにでも別のサーフボードに交換したい思いだ。
しかし、店長さんの強靭さを見習い、無理やり入水。
無理やり使用した事による、サーフボードへのダメージは考えないようにしよう。
こうして私は少しばかり心が強く、鈍感になった。
所で、サーフボードと共に舞い上がった偽クロックスだが、ガイドのT君が必死になって捕まえてくれ、現在も無事に、私の手元というか足元にある。
履き心地をけっこう気に入っていたので、戻ってきてくれてとても嬉しく、ガイドのT君には来年台湾を訪れたら、色違いをプレゼントしようと考えている。
T君楽しみにしといて欲しい。
風の脅威はまだ続く、店長さん大股広げて頭突きをかます
無理やり入水したわけだが、波のコンディションはあまり良くなく、ただ大きいだけで乗ることは出来ない。
ガイドのT君が最初に上がり、Y田さん、店長さんもそれに続く。
私はその様子を沖で波に揺られながら見ていた。
そろそろ私も上がろうか、三人は浜辺で団らんしながら座り込んでいるし。
波が来る。これに無理やり乗って岸まで行こう。そう思いパドリングを開始。
波との間合いを測り力強くパドリング。
浜辺に座る三人が私の視界の片隅に入った。
同時にまたしても突風が、この刹那、私はハッキリと見た。
突風に耐えられず、店長さんが大股を広げたまま、後ろにひっくり返ったのを。
テディベアかと思われるような形のまま、ひっくり返る有様を見れ、皆幸せな気分となった。
後で聞いた話、けっこうな勢いで石に後頭部をぶつけたらしい。
ここでも店長さんは無傷。
Y田さんといい、店長さんといい、強い先輩方に囲まれて旅を出来る私はとても幸せである。
aloha shigeru!!!