通勤電車でパニック 想像力が引き起こした悪夢
大阪駅へ向かう新快速電車がホームに入る。
滋賀県での人身事故。ダイアは大幅に乱れ、駅のホームは人で溢れかえっている。
沸点に達した人々の怒りは、ホーム上を吹き抜ける寒風によって、冷やされ、全ての人が、予定通り目的地へ着くことを諦めた。
諦めが、人々の目を死んだ魚のように変えて行く。
到着した電車は、大量の人を吐き出し、と同時に大量の人を吸い込んで行く。
流れに従うままに、車両の奥へ。想像以上の圧迫感と閉塞感。
身動き一つ取れない。関節で言うならば、手指や足指に自由はあるものの、肘や膝レベルとなると全く自由が利かない。車両内の空気は薄く、これでは動く無酸素カプセルだ。
次の駅まで、十五分。ここで良からぬ事をイマジンしてしまった。
「もし、このまま電車が停まり何時間も動かなかったら・・」
想像力豊かな故に、これが痛手となった。
パニック障害などはおそらく、このような想像力が引き起こす、産物なのだろう。
動悸がする。呼吸が浅くなり、肛門の辺りを悪寒が襲う。圧迫感と閉塞感のバブルパンチで、居ても立ってもいられない辛さ、しかし身動きが取れないため、そこに居るしかないし、立っているしかない。あまりに辛く、そして混雑した車内で貧血なんて、あまりに女々しい。
万が一倒れでもしたら、実際倒れる事の出来るスペースはないのだが、新快速は緊急停車、更なる遅れが発生し、人々の殺意を一身に受けつつ、担架で運ばれるだろう。なんとしてもこんな事態だけは避けなければいけない。だって男だし。
目をつぶり、心が落ち着く何かを浮かべてみる。
「そうだ、もうすぐ春だ。桜が舞い散り、暖かな美しい季節だ。動悸よ静まれ。心よ、落ち着け」
思い浮かべた春は、圧迫感によって、無惨にも打ち消され、動悸は吐き気を引き連れ、追い打ちをかけてくる。
ちなみに、この時点で新快速が発車してから三分。
おそらく、顔面蒼白だっただろう。全身が震えだし、恥も外聞もなくSOSを叫びかけたその瞬間、爽やかな冷気が頬を撫でた。
車内の冷房が作動したようだ。
頬を撫でる冷気は瞬く間に動悸を鎮め、パニくった心に平穏をもたらした。
まるで海底からやっとの思いで海面に出ることが出来た瞬間のような、酸素が全身に行き渡るかのような歓喜だった。
こうして事なきを得て、次駅に到着。その後はいつもと変わらぬ通勤路だった。
冷静になって体勢を立て直し、車内から見た外の景色は、光と酸素に充ち満ちていた。
aloha shigeru!!