南台湾へ、空港で荷物の超過料金を払う事となり、怒涛の粘りをみせたY田さん
旅にハプニングはつきものだ、とは言えこの有様
関西国際空港に到着したのは十時前。
店長さん、Y田さんと合流し、久々の再開を喜ぶ。
店長さんは私が四国サーフィン修行時代にお世話になった民宿の店長さん。
Y田さんは民宿アルバイトの大先輩である。
Y田さんは奥さんも見送りとして参加。
空港には独特の空気感がある。
まだ日本にいるはずなのに、空港の空気感に触れた途端、すでに心はここではないどこかを旅しているような、Y田さんの奥さんはこの空気感がとても好きなようで、終始、旅するおっさん三人組を羨ましがっていた。
再開を喜び、懐かしんだ後、荷物検査に行くことに。
サーフボートという特殊な荷物を抱える我々三人にとって、この荷物検査はとても重要である。
大きさや重量が規定を超えてしまうと、超過料金が取られ、旅の貴重な資金に大きな支障を与えるのだ。
検査場でサーフボードとトラベルバックを係りの女性に手渡し、重量と大きさを計測してもらう。
私と店長さんの荷物はなんなく通過。
Y田さんの計測に時間がかかる。
ここで問題が、Y田さんのサーフボードが規定の大きさを超えてしまっているらしい。
規定の大きさはサーフボードの縦、横、厚み、この三つの合計、270センチ。
Y田さんのサーフボードはなんと290センチ。
明らかな規定越え。
どうやらY田さん、縦の長さのみで考えていたらしい。
超過料金七千円、旅のスタートとしてはあまりに大き過ぎる痛手に、私と店長はかける言葉もない。
しかし、ここからが最年長で大工のY田による怒涛の粘りだった。
まずサーフボードケースの中から、いらない物を取り出し、厚みをなくす、ケースの折り曲げれる部分を無理やり折り曲げて、長さ、横幅共に短くする。
相当縮まったはずだ。
誇らし気に再度計測。
275センチ、僅かに届かない。
限界まで縮めたので、これ以上は無理だ。
さすがのY田さんも落胆の色を隠しきれない。
それでも納得出来ない、Y田さん。
サーフボードをケースから取り出し、剥き出しのまま計測に臨もうとする。
海外でサーフィン経験があり、サーフボードを持参した事がある人になら、わかるだろう。
サーフボードを剥き出しで預けるという事の無謀さがどれほどの事か。
確実に破損するだろう。サーフボードとはそれほどまでにデリケートな品物なのである。
血迷ったY田さんを引き留める私と店長さん。
係りの女性も苦笑いで、相当な困りよう。
Y田さんとしてはこの際、サーフボードがどうなってもいいから、余計な出費だけは避けたのだろう。
金が絡むと人は変わる。本来の目的など、どこへやら、とにかく払いたくないものは払いたくないのだ。
自営業で大工、というシビヤな世界に身を置いているからこその粘りなのだろう。
しかし、結局の所、剥き出しのサーフボードでも規定を超えており、諦める以外に手はなかった。
係りの女性に連れられ超過料金を払うカウンターに移動するY田さん。
再開時よりも一回り小さくなった背中を見つめながら、私と店長さんも後に続く。
カウンターで何やら話し込むY田さんを少し離れた場所で待つ。
最後の粘りといった所だろうか。審判はすでに下されたというのに。
少し間があり、Y田さんの顔が遠目にも明るくなったのがわかった。
奇跡が起き、空港の神が舞い降りた瞬間だった。
Y田さんは私たちの元に戻り、一言。
「ようわからんけど、払わなくて済んだ。脅してないで。」
超過料金の支払いが取り下げられた理由は今のところ判明していない。
おそらくだがホームページ上の記載に誤りがあったのか、最初の係りの女性が勘違いしていたのかだろう。
あまり詳しい説明もないまま、手間を取らせた事への謝罪と超過料金を払わなくていいという事だけ伝えられたのだ。
なにはともあれ、余計な出費を免れたY田さん。
心なしか背中が大きく、姿勢も良くなった気がする。
長い旅の最初のハプニングを乗り越え、安堵と少しの疲労を感じながら、搭乗前の腹ごしらえに向かう。
Y田さんの奥さんも合流し、パスタ屋に入店。
本日のパスタを食しながら、先ほどの戦いを語るY田さん。
バジルの香りが優しく、歯ごたえのいいパスタを平らげる。
搭乗までのこんな時間がとても心地いい。
これから始まる旅への期待で胸が躍る三人。
一つのハプニングを乗り越えたからこそ、余計にいい気分なのかもしれない。
今思えば、あの時の我々三人は、どれほど間抜けな面で食事をしていたのだろう。
この三十分後、あの時が一番幸せだったと思わせられるほど、どん底に突き落とされる事態が起きるとも知らずに。
aloha shigeru!!!