大阪駅前ビル地下一階のマズラ喫茶店に来た
別世界、孤高の喫茶店がここにはある
マズラに来ている。
ご存じだろうか。大阪駅前第一ビルの地下一階。今の世とは明らかに一線を画した孤高の喫茶店。
たばこの煙がもうもうと立ちこめ、喫煙、禁煙スペース等という隔たりは存在しない。
なんなら、喫煙しないなら、帰ってくれと言わんばかりの強気の雰囲気がそこにはある。
内装は一言で言えば昭和のキャバレー、今やレトロと呼ばれてしまう装飾品の数々、背中の中央付近までしかない椅子に宇宙空間を連想させる天井、ウェイターは皆、オーバーfourteen。最近は若い子も働いているらしいが。
喫茶店マズラについて、少し調べてみた。
なんとここのオーナーは台湾の方らしい。南台湾から帰国したばかりで台湾を全身で感じて来た私には、不思議な偶然であり、たまたま通りかかりなにげなく店に入ったことに運命を感じてしまう。
そんな風に物思いにふけり、一杯250円のホットコーヒーを啜る。
そしてこのオーナー、現在94歳で今だ現役バリバリ、毎日のように店内に立っているらしい。
という事はつまり、先ほどから店先で威勢のいい「いらっしゃませ。」を繰り返し、感謝の気持ちをその声の声量に乗せている方がオーナーなのである。
この「いらっしゃいませ。」が半端じゃない。
声が響く度に、驚き、ついつい肩をビクつかせてしまうほどだ。
まるで鋭利な刃物のような鋭さと、それでいて決して相手を傷つける事のない、暖かな感謝の気持ちを感じさせる。
しかしながら、私以外の客はこの声にビクつく事もなく平然と喫茶店での一時を楽しんでいる。
マズラを初めて訪れた私には、その声をこの店の当たり前であり、いつもと変わらぬ光景と捕らえる事は出来ない。
これがマズラなのだ。オーナーの半端ではない「いらっしゃいませ。」それは名物であり、マズラとイコールで結ばれるモノであるらしかった。
とてもロマンチックなマズラエピソード
マズラという店の由来を調べてみた所、このオーナーがとてもロマンチストであることが判明した。
これはとても素敵なお話だ。
オーナーが若かりし頃、インドネシア・マドゥラ島を旅したらしい。
夕暮れ時、宿の近くの浜辺で、海を眺めながらギターを引くオーナー。
そこに宿で働く、若く美しい女性が近寄り、オーナーのギターの音色に耳を傾けていたらしい。
オーナーはこの女性に伝えた。
「いつか店を開くときは、君の事を思い出して、この島の名前を付けるよ。」と。
とても素敵な、ロマンチックなお話である。
それから、70年、大阪駅前の移り変わりようは尋常ではない。
同じ様な店ばかりが一つのビルに群れ、そんなビルの群がこの駅前を作り上げている。
それぞれに特色はあるのらしいけれど、見る側が目を凝らし、のぞき込まなければ伝わってこない程度の特色だ。
流行りに乗っかり、利益ばかりを求めた結果、結局皆、同じ方向を向かざる終えなくなるのだろう。
マズラのように、ロマンが根元にある、お店はもう数少ないのかもしれない。
aloha shigeru!!!