ついにスーツが出来た、ライトグレーでとてもタイトである
タイトなスーツにねじ込む、私という戦うボディ
以前このブログで書かせてもらった、オーダースーツがついに出来上がった。
完成までに予想以上に時間がかかり、途中、台湾に行っていた事も重なって、半分忘れかけていたのが正直な所である。
受け取りのために北新地にある店頭へ向かう。
大阪駅から徒歩八分という所だろうか、平日なので、スーツを着用したサラリーマンで地下道は溢れかえっている。
サラリーマンの間をすり抜け、急ぎ足で店に向かう。
何か欲しい物が手に入る時、私は決まって急ぎ足になる。
その日は冬型が緩み、春の日差しが降り注いできていたので、店頭に着いた時には、なかなかの汗ばみ具合となっていた。
店に入り、オーダー時に担当してくれた若い男の定員を探す。
見当たらない、休みだろうか、休憩中という事も考えられる。
とりあえず、近くにいた少し年配の定員に声をかけ、引換券を手渡す。
店長だろうか、ベテランの風格が漂い、声のトーンもとても落ち着いている。
小太りで、顔はビリケンさん。ビリケンさんに趣味のいいスーツを着せると、まさにその人である。
「お待たせいたしました。」と右手にイメージ以上に明るい、グレースーツを持って、カムバックしたビリケンさん。
そこで、このビリケンさんに聞いてみた。「前にいた若い男性の定員さんは今日お休みですか?」
ビリケンさんは言う「辞めてしまったんです。他にやりたい事があるらしくて。」
まさかの展開に戸惑いつつも、今の世のあまりにもありふれた、その一部にたまたま遭遇しただけだと、戸惑いも長くは続かない。
皆、仕事を止めるチャンスを常に伺い、今日を生きているのだ。
今の自分は本当の自分ではない、ここではないどこかに、もっと自分らしく生きれるそんな場所があるはずだと。結局そんな場所など、どこにもないのに。
試着室という狭き世界、母親の一言が胸をえぐる
ビリケンさんの誘導の元、試着室へ。
家から持参したワイシャツと革靴を傍らに置き、服を脱ぐ。
試着室という狭い世界、その中で一つの衣と向き合い、己の肉体との相性を確かめる瞬間。
あくまで慎重に、一つ一つの動作を丁寧に行い、出来立てのスーツと向き合う。
私のような体育会系出身者は、基本動きが乱雑だし、大雑把な身体の使い方しか知らないものだから、なおさら注意を払わなければならない。
とてもタイトだ。「タイトなスーツにねじ込む」である。
この歌の歌詞、「ねじ込む」は感覚的にまさにその通りで、身体感覚を言葉にする上手さを見習いたいと思った瞬間だった。
ライトグレーのスーツを身にまとい、鏡の前に立つ。
ライトグレーという色味が、スーツから僅かながらにフォーマルさをそぎ落とし、ちょうどいい感じのカジュアル感を引き出している。
ドアのノックが聞こえ、ビリケンさんが顔を出す。
「いかがですか?」
「色も形も気に入りました。」と私。
いっその事このまま着て帰りたい衝動に駆られるが、これは今後のお楽しみにとっておこうと思う。
帰宅し、母親に「誰か結婚せぇへんかな、早くスーツ着たいわ。」と言うと。
「あんたが早く結婚しなさい。いつまで余興やってんの。」と言われ、深く傷ついた。
aloha shigeru!!!