日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

いたずら電話といたずら書きが相次ぐ、我が家はどうなる

3H中島さんから発せられるメッセージとは

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 私が南台湾に行っていた二月の終わり、実家の電話が鳴り響いた。
 電話をとったのは母親。電話の向こうからは男の声がする。

 区役所の者だと名乗るこの男、電話の内容は中嶋さんについてだった。 中嶋さん、母親は一瞬誰の事かわからなかったが、話を聞いている内に、実家の三件隣に住まれている中嶋さんの事だとわかったらしい。
 男は言う。「中嶋さんは最近、家におられますか。」
 区役所の人間がわざわざ電話をかけてきてこんな事を聞くものなのか、母親は戸惑いながらも、「わかりません。あまり交流がないもので。」と答えた。
 男は続ける。「中嶋さんのご主人は公務員でしたよね。」
 明らかに怪しい感じがしたのと、用事があって家を出なければ行けなかったという事もあり、「知りません、よくわかりません。」と冷たくあしらう形で電話を切ったらしい。
 私はこの話を、その後の事態が起きるまで知らされていなかった。

夕刊へのいたずら

 仕事が休みで、一日予定のなかったその日、私は梅田のカフェで一人、ブログの執筆とネットサーフィンを楽しんでいた。
 その梅田にあるカフェはネット環境が完備されており、オフィスビルの十五階にあるという事で景色も良く、私のお気に入りの場所の一つである。
 ブログの執筆が一段落し、タバコをふかしながら、梅田の街並みを見下ろす。天気も良く、日差しから春の光の暖かさを感じる。
 これから横断歩道を行き交う人々の中にフレッシュな若人が目立つ季節がやってくる。
 新品のスーツに身をまとい、今までとは違う新たな世界に期待を抱いている若人達。
 そう言えば、私のオーダーしたスーツも出来上がったらしい、いい加減取りに行かなくては、そんな事を考えていた時に、私の携帯電話が珍しく震える。
 母親からである。
 「家出る時に、怪しい人見かけなかった?」
 声は緊迫している。答えをいち早く求めている時の声だ。
 私はその緊迫に呑まれないよう、あくまで冷静に「いや、何も見なかったよ。なんかあった?」
 と逆に答えを求めた。
 母親の話では、夕刊にいたずら書きがあったらしい。しかも赤の文字で。
 電話の向こうでは、ちょうど父親が仕事から帰宅したらしく、母親は詳しい事は帰ってからと、一方的に電話を切った。

謎の3H中嶋さん
 

 私が帰宅したのは九時を少し回った辺り、リビングに父親、母親、妹が集結しており、家族会議の雰囲気。
 例の夕刊を私に手渡す母親。それと同時に「どう思う?」と言った声が刑事ドラマの台詞のように聞こえる。
 夕刊には、赤の文字で、「3H中嶋さん」と書かれていた。

 記事の上側、空欄になっている僅かな部分に書かれている。
 記事を覆い隠すことなく、空欄に書かれている所が、いたずらというよりは、何かの走り書きを間違えて、夕刊にしてしまったのではないか、そんな気にさせる書き方だ。
 「中嶋さん?」怪訝な顔をする私に、母親が、実は少し前にいたずら電話があって、と私が南台湾旅行中に起きた、いたずら電話の話を聞かせてくれた。
 つまり、ここ最近、我が家には怪しげな事態が二件連続で起きている。
 しかもその両件が中嶋さんとなんらかの関わりがあるようなのだ。
 いたずら電話と夕刊への落書きが連続するだけでも気持ち悪いのに、中嶋さんという共通のキーワードがある事が、我が家の不安をより一層強くしているのであった。
 この場合、電話の主とらくがきをした人物は同一人物と考えるべきなのか、普通に考えればそうなるだろうけど、ただの偶然ではないか、中嶋という名前の多さは想像以上のような気もする。
  こんな時、推理好きのおばはんはややこしい。自分が探偵にでもなったかのごとく推理を始める。
 「3HのHはホームつまり三軒隣の中嶋さん、もしくはHは時間を表しているかも、つまり三時になんかあるかもしれん。」
 不安も多少あるのだろうけど、明らかに事態を楽しんでいる様子である。
 男という生き物はこんな時、比較的無関心な事が多い。
 事態をややこしく考えるのがめんどくさいのだ。
 物事を過大に意識し、自ら不安を煽るような事はしたくないし、事態がよっぽどの事になるまで、その事態を認めたくない。
 男とはそんな弱く、軽薄で薄情な生き物だと思う。
 その夜、母親はいつも以上に、戸締まりを厳重にし、玄関の電気も点けたままにして寝床に入った。

 私は自室で一人、コーヒーを飲みながら、ぼんやりと考え事をする。

 一日の中でとても大切な心休まる時間である。

 いつもなら、次回のブログの記事は何にしょうかとか、週末は波が上がるのかなど、あくまで楽しみを考えこしらえる時間なのに、この日はそれらの事に考えが及ばない。

 「3H中島さん」から発せられるメッセージの意味とは、何事もなく日々が過ぎ去ってくれればいいのだが。

 自分の身に何か不測の事態が起きた時、人は普通のありがたみを全身で感じる。

 飽き飽きしていた当たり前の日常を心から愛おしく思う。

 三時少し前、台所に降りて、飲んでいたコーヒーのマグカップを洗った。

 玄関はいつもと違い明かりが点されており、その明るさが逆に、我が家への侵入者の影を映し出しそうな気がして、足早に自室に戻った。

 朝はいつも通り、普通にやって来た。

 それから数日が経過しているが今のところ大きな事態は起きていない。

 それでもまだ安心出来ないので、我が家の玄関の明かりは深夜になっても点いたままである。

 今月いっぱいはこんな状態が続くかもしれない、そしてまた新たな状況の変化が起きるのかもしれない、何かあればまた書こうと思う。

 願わくば書かずに済めばいいのだが。

父親とこん棒

 所で、今回の事態に対して、父親は酒にべろべろに酔いながらこん棒を用意し、侵入者があれば、いつでも戦える体制を整えたようだ。
 こん棒を傍らに置き、とても情けない音色のオナラをしたらしい。
 これを見た母親と妹は、この人には何も期待出来ないと悟ったらしい。
 男とは本当に不真面目だ。

                                                                                         aloha shigeru!!!