創業百年老舗焼き鳥屋~鳥鹿~
変わりゆくモノと変らないモノ
鳥鹿の親子丼がとろっとろの美味で、それまでまんぷくだった私の胃袋はどこへやら。
飲んだ後の締めに食べる一品にはそんな魔法があると感じた。
ラーメンもいい。アルコール後の炭水化物が人類の胃袋にはちょうど心地いいのだろう。
この日は知り合いのお医者様と後輩の三人で食事会。
お医者様が美味しい焼き鳥屋があるというので、私と後輩は完全なお任せモードに。
難波から地下鉄千日前で一駅の日本橋。
ここに創業百年の老舗鳥鹿はある。
料亭も同時に経営しているらしく、店の外観はなかなかの佇まいである。
一階はカウンターのみ、料理人を中央にぐるっと回転ずし風のカウンター席だ。
私たち三人は二階のテーブル席へ。
二階は四人掛けのテーブル席が三つに十人ほどが座れそうな座敷が一つ。
私達の席はテーブル席の中でも一番奥の、従業員達が一階とメニュー等の連携をとる中継所の近く。
お医者様曰はく、席としてはいいが、トイレに近いのが雰囲気を壊すらしく、嫌らしい。
お医者様は、この鳥鹿に通い出して、三十年、時代の流れとともに変化してゆく鳥鹿を見てきたらしい。
昔は味は間違いないが、とにかく接客が悪く、愛想のない店だったようだ。
それでも相手を黙らせるほどの圧倒的な力、飲食店で言えば料理の味があったので、接客の悪さに文句を言いつつも、皆が通っていた。
また当時は鳥を専門に営んでいるお店が希少で、ライバル店が他に存在しなかった。
鳥料理界のパイオニア的存在だったのではないだろうか。
時代は移り変わり、鳥を専門とする低価格帯でそこそこ美味しい、チェーン店が、街の至る所に、立ち並んだ。
しかも従業員は若くて愛想がいい。
それまで、味という圧倒的な力のみで商売してきた鳥鹿、伝統の味さえ守っていれば客足が途絶える事のなかった老舗にも、これはやばいな、という雰囲気が漂い始めたのだろう。
今や接客はずいぶん改善され、ホール担当の中年女性達が見せる笑顔は、大手チェーン店にも引けを取らないだろう。
「客商売は愛想が基本だよね。」ウイスキー片手にお医者様は言う。
私も後輩も深くうなずいた。
とそこへ、一階から明らかに料理長的な雰囲気を身にまとった、初老の男が上がって来た。
ぎょろ目で顔は浅黒く、少しばかり腰が曲がり出している。
インドネシアにでもいれば、間違いなく現地人と思われるであろう、その風貌。
お医者様が笑顔で声をかける。「久しぶりだね。」
インドネシア人はぎこちない事この上ない、引きつった笑顔で、軽く会釈。
小声で「あいつだけは、あんまり変わらない。」とお医者様。
本流と決して合流する事のない、支流がここに一つ。
でもまぁ、大阪、日本橋の老舗焼き鳥屋、「そんな濃い奴が一人はいないとね。」
お医者様のおおらかな言葉に私も後輩も再び深くうなずいた。
aloha shigeru!!!