日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

大いなる一歩

落ち武者よ、悪ふざけが過ぎるぞ。

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 私のお客様の一人に、落ち武者スタイルの方がおられる。

 落ち武者スタイルと言っても、甲冑を身にまとい、刀を持っているわけではない。

 髪型だ。

 髪型が落ち武者スタイル。つまりはハゲ散らかしているわけだ。 

   年齢は50代半ば、建築関係の会社を経営しており、その身なりと話し方から、確実に頭のいい人であると推測される。

 私とも仲が良く。気が付けば知り合って、2年ほどになるだろうか。

 この落ち武者様に、ある日大きな変化が起きた。

 この変化を目の当たりにした時に感じた、私の違和感をどのように説明すればいいだろう。

 人気番組、世にも奇妙な物語をご存じだろうか。様々な奇妙な物語が映し出されるわけだが、その中でもよくあるパターンの話。

 主人公が朝起きると、世界が微妙に変化していて、それが当たり前となっている。

 その変化に違和感を感じるのは主人公だけで、その他の人々はそれが、さも当たり前かのように普通に暮らしているというお話。

 例えば、朝起きると日本中で横文字を口にするのが禁止になっており、カフェやノートと発言しただけで罰金が言い渡される。

 そんな変化に戸惑いながらも主人公はその暮らしに、必死になって順応しようと、もがき苦しむ。

 こんな話が実際に放映されたかどうかは定かではないが、大体こんな感じの話が、世にも奇妙な物語の定番ストーリーの一つだ。

 私がある日、落ち武者様と会った時の違和感は、まさにこの奇妙な世界に迷い込んだと言っても過言ではないだろう。

 さて、話を戻そう。

 この日も私のお客様である、落ち武者様はいつもと変わらない普通の顔をして、私の前に現れた。

 いつもと変わらぬ温和で柔らかな表情。

 切れ長の目に、鼻筋の通った西洋風の顔だち。若いころはそこそこモテただろう。

 しかし、私のよく知る、落ち武者様はそこまでだった。

 禿げ上がって、年中、日差しにさらされた頭皮はどこにもなく、代わりに、今風の少しパーマがかった毛が頭部全体を占領している。

 簡単な話、ヅラを装着してきたのである。

 最初からならいい、「あの人ヅラだね。」と誰かが気付き、触れてはいけない重要事項の一つとして、認識されるまでだ。

 しかし今回は途中から、しかも約2年という付き合いが今まであるだけに、どう接していいのかわからない。

 「あっ。被り始めたんですね。」などと、明るく接する事の出来る人は間違いなく無知な人だろう。

 それでも、どこかで一歩踏み出さなければ何も始まらなかった、落ち武者様の気持ちもわかる気がする。

 それがたまたまこのタイミング、私と知り合って約2年目になっただけのことなのだ。

 しかしこのタイミングで面と向かって接しなければいけない私の身にもなってほしい。

 いっそのこと、「明日からヅラ被るのでよろしく。」と言って欲しかった。

 どう接していいかわからない私を相手に、元落ち武者様は話し出す。

 「北海道に出張で行ってきたんですけどね、面白いお店があってね。」

 変化に戸惑う私をよそに、あくまで普通を装うつもりのようだ。

 「そのお店が変わったお店でね、飲食店なんですが、アクセサリー販売してたり、壺も売ってるし、それから、カツラとかもね。」

 カツラ、今カツラと言ったのか。自らさらけ出すつもりなのか、相手の予想に反する先制攻撃に足がすくむ私。

 「あっ。そこでカツラ買われたんですね。」などと言える人は間違いなく柔軟過ぎる頭の持ち主だろう。

 しかし、自らカツラというワードを出してくるわけだから、さっさとヅラにふれてほしいのだろうか。

 わからない。接客歴10年を超す私の接客能力でも判断できない。

 「いゃー。ほんとに変なお店でしたよ。」

 元落ち武者様はまだ話し続ける。

 「飲食店なのに、アクセサリー売ってるなんてね。変な店でしたよ。なんでカツラ置いてるんでしょうね。」

 2回目の爆弾投下。

 これはお手上げ状態だ。

 白旗を振り、逃げ帰りたい気持ちの私。

 元落ち武者様の心が全く読み取れない。

 そこまで言うなら、その店で買ったヅラを被って来たと、一言欲しい。

 とどめを刺すことなく、じわりじわりと相手を苦しめる。

 卑劣なやり方だ。

 その後とどめを刺されることなく、元落ち武者様は1時間ほど我が社に滞在。

 なんとかこの日を乗り切ったという思いで、疲労困憊の私。

 元落ち武者様が帰り際に言う。「そういえば、シゲルるさん*1京都にお住まいでしたよね。」

 「そうです。京都です。」

 「京都のどちらですか。もしかして桂(カツラ)?」

    京都をある程度知っている人なら、わかるだろう。京都に桂(カツラ)という地名が存在するのを。

 このまま今日を乗り切れると思っていた私が甘かったようだ。

 本日三度目のカツラ発言、ヅラを被って来た人が自ら、カツラを三度も口にする。

 ちなみに私の住まいは同じ京都でも桂(カツラ)とは全然違うところだ。

 知ってるはずなのに。

 最後の最後、別れ際の一刺し、まだ終わりじゃないぞ、今日はこれぐらいにしといてやろうという、元落ち武者様の宣戦布告。

 果たして、この戦いに終わりは来るのだろうか。

                                                                                                         aloha shigeru

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:私の名前