日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

男性で脇汗パッド付けている人がいたら教えて欲しい、私はこの男以外に知らない

潔癖王子の脇汗パッド

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 私の後輩にYという男がいる。

 年齢は23歳、大学を卒業後、百貨店の焼鳥屋で一年ほど勤めていたが、生の鳥を切り刻む事に大きなストレスを抱え、退社。
 その後間もなくして、我が社に入社してきた。
 高校、大学と名門のバレー部に在籍しており、ノリはまさに体育会系。
 声のでかさを上回る態度のでかさだ。
 私も昔は周囲から、偉そうとか自信家などと言われていたし、ここら辺においては同じ匂いがすると言っていいだろう。
 
 ところで、このY。とても潔癖性なのである。
 社内では潔癖王子のあだ名が付いており、と言っても私が付けたのだが、その地位は揺るがないモノとなっている。
 この潔癖が尋常のレベルではない。
 仕事が終われば、パンツ一枚となり、全身を汗拭きシートで拭き続ける。
 靴を履き替える際も決して地面に足を着けない。
 手の洗い方も、角質全てがもぎ取れるのでは、と心配になるほどの洗い様である。
 そして、私が最も驚き、目を疑ったのは、肌着の脇にOLの方がよく貼り付ける、脇汗パッドを装着するという事だ。
 女子でも貼っている人を、ほぼ見たことがない。
 そんな珍商品を絶えず、自室にストックしているのだから、よほど、肌着に付く脇染みが気になるのだろう。
 Yは言う。
 「一度付けるとやみつきになりますよ。もうこれなしでは服を着れないです。」
 「一枚いかがですか。」
 とても怖い勧誘だ。
 わけのわからん宗教団体並にたちが悪い。
 一度でも付けたら終わりなような気がする。
 確かに夏場などは便利だろう。
 私はグレーのTシャツを好んで着るので、脇汗は確かに目立つかもしれない。
 かもしれない、と言うのも、自分自身はあまり気付いていないし、今のところ気になってはいないからだ。
 しかし、自分では気付かない内に、大きな湿地帯がグレーを脅かしていたらどうしよう。そんな事を考えると、脇汗パッドが光り輝いて見え出すものだ。
 自分の事は自分が一番理解していないと言うではないか。
 思い込みの安心に酔い、己が見えなくなったその後に、惨事は決まって起こるのだから。
 震える手でYの脇汗パッドに手を伸ばす。
 指先がパッドに触れたその刹那、女子社員が現れた。
 私は伸ばした手を、即座に引き戻し、冷静を装う。
 Yの事を小馬鹿にし、女子社員から笑いを誘う。
 おそらく、帰宅後自己嫌悪に陥るだろう。
 こんな時は決まってそうなる。
 少なくともつい数秒前まで、私も脇汗パッドを付ける自分を思い浮かべ、そんな自分もありかな、などと考えていたくせに、女子の前ではこの有様だ。
 Yから冗談半分の軽蔑の目が注がれる。
 目を逸らし、女子社員とたわいもない会話をする。
 女子社員が去った後、私の脇元にはパッドを求めるかのごとく深い、恥じらいの湿地帯が広がっていた。
                                 aloha shigeru