日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

”ナイトリバーの恐怖”

深夜の河川敷、そこは奴らの縄張りだった 

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 何年かに一度、無性にバス釣りをしたくなる衝動に駆られ、釣り竿を引っ張り出す。

 その年の春も、気が付けばスイッチオン、ほったらかしであった道具一式に手入れをするのに要した時間は僅か1時間足らずであった。
 

 深夜2時、自転車に跨がり淀川上流を目指す。
 目指すは難攻不落の異名を持つポイント、”城北ワンド”である。
 市内ではもっともメジャーなポイントで、休日は釣り人やバーベキュー目的の人々で溢れかえり、その影響からか、魚が釣れることはとても稀なのだ。
 

 この難攻不落の城を落とすには、夜中が狙い目だという情報を聞きつけた私は、深夜2時、釣り竿を担ぎ、自転車を漕ぐに至ったという訳である。
 途中、コンビニで、食料を調達し、淀川河川敷に進入。
 ここから河川敷を30分ばかり、上流に向かう。
 夜中の河川敷は不気味でしかない。
 宇宙人に拉致されようと、河童と遭遇しようと、不思議ではない。
 月明かりと己の五感しか頼れるモノはなく、いつ命を落としてもおかしくはない。
 しかし、生まれ持っての冒険家気質の私はこの状況を楽しむ余裕がある。そうでなければ、夜中にこんな場所へは来ない。
 

 上流に向け、15分ほど自転車を漕いだ辺りから、周囲の空気が明らかに変化したことに私は気づいていた。
 危険地帯に足を踏み入れている感覚、生い茂る草木が、上流から吹き付ける風が、「これ以上は進むな。」と、教えようとしているのかもしれない。
 前方に複数のうごめく影が見える。
 約50メートル前方、そこに六つの影、あれは”野良犬”である。
 ここは彼らの縄張りなのだ。野良犬6匹と深夜の河川敷で向かい合うこととなった私。
 変に引き返せば、追われる可能性が高い。だからといって、このままスピードを上げ、突入するのは自殺行為である。
 事を荒立てないよう、低速で直進する。あくまで低速だ。静かに、控えめに、夜中にすいません的な表情を、野良犬達が理解してくれればいいのだが。
 

 野良犬達が前方10メートルに近づいた辺りだろうか、私のペダルを漕ぐスピードが焦りと恐怖で僅かに速まってしまった。
 これが決闘開始の合図となり、一匹が猛烈に吠えだした。
 こうなったら止まらない、6匹総出で”ギャン吠え”状態。
 ここは彼らの縄張りだ。呑気に釣り竿を抱えて、深夜にお邪魔した人間が悪い。
 私はほぼヤケクソ状態で、全力全身、縄張りを猛スピードで切り抜けようと試みる。
 野良犬は地面を二、三度空掻きし、獲物である私を追いつめる。
 やつらのスピードはハンパじゃなかった。あっという間に追いつかれ、私を中央にして、右に三匹、左に三匹、横一列で河川敷を走り抜ける。
 恐怖が頂点に達した私は、なぜだか、大声で「アホー!!!この野良犬、ボケー!!!」と野良犬以上の”ギャン吠え”を発していた。
 ”野良犬”に”野良犬”と叫んでも効果はない。
 そしてその瞬間、私はハッキリと見た、犬達の目が、完全に”肉”を狙っている目であったということを。
 

 一片の肉を狙い、猛獣と化した犬達。
 私の”桃尻”は奴らをおびき寄せるかのように、高く突き上げられている。立ち漕ぎだからしょうがない。
 おそらく、50メートルは野良犬達と横一列で走り抜けただろう。
 縄張りから出たのか、野良犬達はあきらめ、私は九死に一生を得た。
 恐怖で震えが止まらず、釣り所ではなかったが、この経験によって、私の冒険意欲が、より一層高められたことは言うまでもない。
 

 それにしても、あの光景、私と野良犬達による、”横一列編制”。誰かが動画で納めていたら、youtubeでとてつもない再生回数をたたき出せたはずである。
            

aloha shigeru!!!