日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

”あの頃ボクらは中3で”②

旅は始まったのだ 

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 4人が集まったのは、確か早朝6時頃だったとおもう。

 ボクは淡路島に着いたら釣りをする気満々だったので、釣り竿をベルトでチャリンコに固定し、隣町へ行くかのような軽装備でサドルにまたがった。
 4人はそれぞれの家のちょうど中間点となる大きな橋の下に集合。
 なぜだか、4人共、にやけ顔だ。
 旅に出る。クラスの奴らがやったことのないことを、これからしようとしている中学生4人。にやけ顔になるのも無理はない。
 

 ナカオを先頭に走り出したボク達。二番手をまっちゃん、次いでボク、早瀬は最後尾からチームの陣形が乱れぬよう監視の役割についたようだ。
 先頭をいくナカオはペースメーカーとして、とても優秀だった。
 陣形を崩さぬよう、ちょうどいいスピードで走り抜ける。歩道をいけば歩行者との接触の恐れがあるため、あえて車道を走る。
 毎秒ごとに地元が離れていき、走れば走るほどに大人に近づいていくような感覚が誇らしかった。
 

 振り返り、早瀬の存在を確認してみる。
 今しかできないと、金髪に染めた坊主頭に、上下真っ赤なウインドブレーカー。またがる相棒は豆腐屋御用達のレトロチャリンコ。
 「こいつ、淡路島まで、もつかな・・・」自分のことより早瀬と、そのチャリンコが心配になるボク。とても友達思いの、いい奴だ。
 ボクの心配をよそに、レトロチャリンコは空中分解することもなく、走り抜ける。

 途中何度かコンビニで小休憩をとり、いい具合の疲労感でフェリー乗り場にたどり着いた。時間にして約3時間。
 海がみえた時のボクらの興奮はハンパじゃなかった。
 左手に海をみながら、ラストスパートをかける4人。
 競輪のラスト一周、鐘が鳴りひびき、それまでの陣形はいとも簡単に崩れる。
 我先に海にたどり着きたい闘争心。
 豆腐屋も後方からしっかり食らいついてきている。
 海にむかって「うみーー!!」と叫ぶボクたち。
 本当に心が震えた時の、人の叫びとはシンプルで、意味などない。
 

 二十年立ち、サーフィンが趣味となった今では毎週のように海をみるし、波がないと憎しみの感情まで抱いてしまう始末だ。あの頃の興奮と震えが愛おしい。

股間の異変 

 汗だくでフェリー乗り場に到着、潮風を余すことなく、鼻で吸い込む。
 ボクらが乗る予定の船はすでに着港状態だ。
 想像より遙かに小さなその船、海底からすくい上げられた、タイタニックの”一部”程度の大きさである。
 それでも、普段乗ることのない乗り物に、興奮は冷めることがなかった。
 

 それぞれがチャリンコを担ぎ、乗り込む。この辺りでボクらは自分たちの身体の異変に気づいていた。
 股間がやたらと締め付けられている感じがするのだ。圧迫され、血を止められているような感じ。
 

 長時間、サドルに圧迫されたことで、血が止まり、麻痺しているのかもしれない。今、クラスの女子の全裸をみても、なんの変化も起きない若年生EDである。
 ズボンの中を覗くと、青ざめた”ブツ”が横たわっている気がして、怖くてみれない。
 オレの”ムスコ”よ、どうかご無事で。祈りながら、船に揺られること15分。ボクらはついに淡路島の地を踏んだのだった。

クッション

 淡路島に着き、とりあえずトイレに駆け込むボクたち。
 4人並んで、小便器に放尿。4人が同時に叫ぶ。
 「痛てーー!!」遮断されていた血流が尿とともに走りぬけ、急激な変化は痛みを引き起こしたようだ。
 なんとか放尿し終え、旅の疲労と痛みをこらえた疲労から、トイレの前に座り込む。
 あの頃ボクらは中3で、サドルにはクッションが必要だと感じさせられたのだった。(続く)