ここ一番のチャンスを上手くモノに出来ない人々がいる、私もその中の一人だ
「ココイチ」の強さが欲しい
ここ一番のチャンスを上手くモノに出来ない人々がいる。
確実に勝てると言われた試合で、二番に甘んじてしまうシルバーメダルコレクター。
出世のかかったプレゼンで下痢が止まらないサラリーマン。
最後の最後で悪者になりきれない、偽善者。
私も一般市民レベルでは、その代表と言えるだろう。
出会い
レジで声をかけられた。
TSUTAYAのレジでだ。
ショートカットで全体的にボーイッシュな雰囲気を持つ女の子。
大学生ぐらいだろうか。
私が持っていた鞄と同じ物を購入しようとしていた、というのが声をかけて来た理由である。
私の持っていた鞄、実は全てが一品物で世界に一つしかない鞄なのだ。
つまり、彼女は私が購入した鞄を同じ店で、私より少し前に見ていたという事になる。
先に購入してしまった事を、少し申し訳なく思い、「買ってしまって、すいません。」と恥ずかしげに頭を下げた私。
「とんでもないです。また見れて良かったです。」と彼女が言う。
とても爽やかな、ほんの僅かな会話だったけれど、彼女の性格の良さを感じた一瞬だった。
これが彼女という存在を私が初めて認識した瞬間だった。
二日後、駅に向かう道の途中で、後ろから声をかけられた。
同じ娘である。
私は徒歩、彼女はお洒落な自転車、彼女はわざわざ自転車から降り、残り僅かな駅までの道のりを私と歩いてくれた。
歩きながらぎこちなく、お互いが自己紹介し、駅に向かう。
駅の近くに実家があり、現在大学四回生。
私が「お洒落な自転車ですね。」と言うと、丁寧に自転車の名前と購入した店まで教えてくれた。
その日は、大阪で友人との飲み会があり、ほろ酔い気分で、入ったトイレの中で彼女の事を思い出し、「また会いたいな。」と思った事を覚えている。
その後、彼女に会う事はしばらくなかった。
駅に向かう途中や、TSUTAYAの店内、意識して探してしまっている自分に気が付く。
山崎まさよしの曲が頭に浮かぶ。
「いつでも探しているよ、どっかに君の姿を、駅のホームやTSUTAYAの店内、こんな所にいるはずもないのに。」
いや、いるだろ。
いたんだ。よく会ったのに。
なぜに会えない。
しかも近所に住んでるのに。
二度の再会
時は流れ、夏が終わり、秋を漂い、冬を越え、春が訪れた。
私はすっかり彼女の事を忘れ去り、月に一度の飲み会で出会う女子をなんとか、アバンチュールな夜に持ち込めないものかと、そんな事ばかりを考える日が続いていた。
駅のホーム、電車待ちをしている人の列の中に、彼女の姿を見つけたのはそんな時だった。
横目で伺いながら、歩く私。
彼女は明らかに私に気付いていた。
こちらを見ている視線に気付きつつ、気付かない振りをする私。
この瞬間、私はチキンという名を天から与えられた。
そして、その僅か一週間後、またもや彼女に会う。
仕事の帰り、大阪駅から京都方面の新快速に乗り込む私。
この時間、席に座る事は出来ない。
進行方向に向いている座席と座席の間に立ち、外の景色を見る。
何気なく、目の前に座る人に目が行く。
またしても彼女だ。
前方を見、私には気付いていない。
膝から崩れ落ちそうな衝撃に耐えるのがやっとの私。
なんとか持ちこたえ、外の景色を見る振りをする。
その後、大阪駅から京都駅までの約三十分間、私はひたすら外の景色を眺め続けていたのだった。
彼女が私に気付いていたかどうかは、定かではない。
私がチキンの名を不動のモノにする事となった、記念すべき日である。
チキンの名を不動のモノとした私が今、切に願う事、「神様どうか三回目のチャンスを、次はちゃんと連絡先聞くから。」
チャンスは一度で上手くモノにしなければいけない。
夕飯をカレー屋「ココイチ」で済ませた今夜、そんな自分の不甲斐なさを思い出した。
aloha shigeru!!!