前世をみてもらって、愕然、信じたくないスピリチュアル
とても有名なおばさまの営む喫茶店
前世をみてもらった。
とてもとても有名な方らしい。
前世をみれるだけでなく、病気の症状を軽くしたり、痛みを取り除いたり、生まれもって不思議な力を持っている方のようだ。
大きな商店街から東に入り、少し歩く。右手に見える喫茶店、ここが前世をみれる事で有名なおばさまの経営するお店のようだ。
お店の中は前世をみてもらうために来られている方や、思い病を患った方でごった返していた。
皆、コーヒーやケーキを注文し、一見人気の喫茶店のようにしか見えない。
私は知り合いと二人で、席に着き、アイスコーヒーを注文して順番を待った。あくまで喫茶店なのだ。
おばさまの不思議な力は、喫茶店を訪れた客のみに許されるモノであり、そのため何かしらの飲食物を注文しなければいけない。
アイスコーヒーを飲みながら、店内を見渡す、白髪のおばさまが客席を行ったり来たり、どうやらこの人が噂の方らしい。
ところで、私のような、前世はおろか、未来にすら興味のない今を生きている人間がなぜ前世をみてもらう事になったのか、それは隣に座る私の重要なお客様の強引な押しに負けたとしか言いようがない。
「おもしろそうやから行ってみよう。」電話があったのは三日前の昼休憩だった。
完全な冷やかしで来ている我々、しかし思った以上に深刻ムードの店内。
重い病を患っている人まで来ているし、これは少し場違いだったか。
とは言え、このようなスピリチュアルな世界に、我々のような一般人が足を踏み入れる時、そこには少なからず冷やかしの気持ちがある事は全世界共通と考えて間違いない。
新たな世界に足を踏み入れた時に感じる、独特の緊張感に包まれながら、店内をもう一度見まわした時、我々の順番が回って来た。
衝撃の前世
おばさまと向かい合わせで座る。
小さな紙を渡され、そこに氏名と生年月日を記入する。
ただの小さな紙からすら、不思議な力を感じてしまいそうになり、自分がすでに逃げ場のないスピリチュアルな世界に足を踏み入れた事を実感した。
記入された紙を持ち、奥に消えるおばさま。
私の氏名と生年月日をどうするつもりなのだ。
裏で前世本を開き、私の氏名と生年月日から、マニュアル的な前世を引っ張り出して来るのではないか、そんな風に疑いの目を向けている自分に気付き、自分がまだ完全にスピリチュアルな世界の住人になっていない事に安心する。
三分ほどでカムバックしたおばさま、私の前になにやら文字の書かれた紙を差し出す。
そこに書かれた文字を見て、愕然。
「360年前 ブラジル 大工」
具体的過ぎて言葉にならない私。
おばさまは言う。とても陽気で明るい方だったようです。
友人も多く、人気者だったと。
私は心で毒づく、「ブラジル人なんて、みんな陽気だろ、いい加減な事を言うな。」
おばさまは続ける。
とても自分の世界をお持ちのようでして、一見、陽気で明るいのですが、本性はほとんど人に見せる事がなかったようです。
今の私はまさにそうだ。
図星が心に突き刺さり、毒づく思いが一気にしおれてきた。
おばさまが仏のごとく輝いて見え出し、祈る思いで質問した。
「結婚はしてましたか?」
おばさまがの声のトーンが少し落ち、「自分の世界がとても強い方だったので・・・」
来た道を商店街に向け、元ブラジル人大工と、その隣を元フランス人商人が歩く。
フランス人商人が少し羨ましいが、口には出さない。
なぜだか、周囲の建物を見ると心がうずく。
中はどうなっているのか、外観からは想像も出来ない内装なのではないか。
私の身体にはやはり大工の血が、流れているのかもしれない。
aloha shigeru!!!