日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

東京の夜

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 東京で行われた展示会に参加した二日目の夜、各ブースの代表が集まる立食パーティーが開かれ、ボクと上司、今回の展示会のディレクションを担当してくれたN氏の三人で会場に足を運んだ。

 立食パーティーなんてものは、立食が故に立っていなければいけないわけで、足の裏に魚の目を飼っているボクにとっては、苦痛以外の何物でもない。
 さっさと腹を満腹にして、ホテルに戻りたい。しかし上司もいるし、ディレクターのN氏もいる。
 名刺交換という紙の無駄遣いをとことん行い、軽薄な繋がりを作り、それを金に換える。
 そんな人々の欲望のみで形成された会場。
 魚の目の痛みを倍増させて帰宅かと思いきや、N氏はボクと上司に向かって言った。
 「こんな下らん会は、腹を膨らますだけ膨らまして、さっさと帰りましょう。」
 以前からN氏に好感を抱いていたボクは、この一言で、N氏のことがさらに好きになった。

 

 会が始まり、壇上で、偉い人(外人)の挨拶が始まる。
 完全にカタカナでしかない挨拶。
 食事は会場の端に並べられているが、会場の人々は、カタカナ語に耳を傾け、誰一人、食事を取りに行こうとしない。
 「みんな並び出したら、食べ物なくなっちゃうから、先に取っちゃいましょう!!」
 N氏の一言で、皿に食べたい物を取るボクたち。
 会場に集まった300人中、偉い人の挨拶を聞かず、目当ての食べ物を皿に盛りつけているのは、ボクたち三人のみ。
 人々の白い視線が突き刺さる。
 ボクは内心、「これヤバくないか・・・」と思いつつ、N氏と上司の後に続く。
 

 N氏は周囲を気にするでもなく、パスタにシュウマイ、最初からデザートまで、盛りつけ、本当に飯を食いに来ただけのようだ。
 そこへ、会場の係りの人間が。
 「失礼ですが、せめて乾杯を終えてからにして頂けないでしょうか?」
 先頭のN氏は立ち止まり、今まさに掴もうとしていた、だし巻きを元に戻した。
 ボクと上司を振り返り、肩をすくめ、くだらねぇ!!という表情。
 強い人である。
 白い視線に怯えていた自分が情けない。
 その後、乾杯が終わり、とにかく腹いっぱい食べ、帰宅の早さは300人中、メダルを独占。
 

 ホテルまでの帰り道、N氏は「いやぁー、腹一杯ですね。元をとれて良かった!!」と夜空を見上げた。
 己の臆病さを情けなく思い、N氏の強さに憧れた東京の夜だった。
 

 aloha shigeru!!!