日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

”カメ穴”

穴と声

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 十年共に過ごしたカメが、今日死んでしまった。

 二匹いた内の一匹目が死んだのが二年前だから、こいつは今日まで二年間、一匹で、ひっそりと暮らしていたわけだ。
 

 人差し指と親指の先を合わせて、ちょうど出来るぐらいの輪っかが、そいつらを買い始めた時の大きさで、今はもう、手のひら全体がスッポリ収まるほどの大きさなわけだから、成長とは恐ろしい。 
 

 家の裏にある、公園の木の下に、どこまでも深い穴を掘る。
 持ってきたアルミのスコップを土に突き立て、地球の反対側を目指す。
 利き手の右腕で三百回、左腕で百回ほど土を掘り上げ、それでもまだ不安は拭いきれず掘り続ける。
 猫や犬などに掘り起こされてしまう心配があるからだ。
 気が付けば、私はカメのことなどすっかり忘れて、どこまでも続くその穴の深さに、心を奪われていた。
 

 地面に這いつくばることで、やっと手が届く穴の底。日が沈み始めていることもあり、底がどのような具合なのか、もうよくわからない。
 スコップを放り投げ、ただ、穴をのぞき込む。
 その時、ふいに思ったんだ。
 「声が聞こえるかもしれない」と。
 穴の入り口に耳を近づけてみる。
 熱をもった空気が吹き上げ、耳が一瞬にして、真っ赤になったような気がした。
 熱波は耳をとおして、私の身体に入り込み、全身を疲労感と倦怠感が包み込む。
 

 去年の夏、熱中症になって、部屋で寝込んでいた時の感じに、とてもよく似ていて、あの時に嗅いだ、枕の匂いを思い出した。
 足下がふらつき、その場に仰向けになって寝転がり、すでに輝きはじめていた星空を見た。
 

 この世界はまるで、星の模様のしたマントにすっぽりと包まれているかのようだ。
 「潮時だな」
 「確かにな」
 「そりゃ色々あるわいな」
 「もうちょい生きてみるわ」
 もう一人の自分と、すこし言葉を交わしたことで、周囲がクリアになった気がして、私は立ち上がった。
 穴の底に、カメの死骸が入った木箱を入れ、スコップで土を重ねていく。穴を完全に塞ぎ、公園を後にする。
 自宅までの帰り道、自分の目線が少し高くなった気がしたが、明日には元に戻るだろう。
       

             aloha shigeru!!!