Sさんの職業は秘書かマネージャー、いずれにしろ現代の忍者である
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私の机の上に、こんぶ飴が二つ置いてある。
四つあったものを、二つ食べてしまったので、残りは二つだ。
先週の日曜日、仕事の帰りの電車でバッタリと出くわした時に、Sさんがくれたものだ。
私のお客様の一人である、Sさん。お客様であるだけに、職場でしか会ったことがない。
いつもと違う場所で、いつもの人に会うと、とても違和感を感じる。
Sさんはとても明るく、本当に明るくて、ケタケタと笑い、口癖は「わからへーん。」ショートカットがよく似合う、素敵な女性である。
女性の発する負の匂いを、瞬時に嗅ぎ取るクセのある私だが、この人にはそのような匂いが一切感じられない。そこが逆に怖く、底抜けの明るさの裏を覗き見ようとしてしまう私の心は、とても貧しいと感じる。
Sさんは少しばかりへっぴり腰なのが特徴で、音を立てず、摺り足で歩く。前にその歩く姿を見て、「忍者みたいですね。」と私が言うと、案の定「わからへーん。」と明るく笑った。
職業については明確に教えてもらったわけではないが、上司とマンツーマンの職場らしく、その上司はとても凄い人らしい。
上司とマンツーマン、とても凄い人。その上司はおそらく経営者。もしくは有名人。
つまりSさんは秘書かマネージャーである。間違いない。
側近、右腕、シャドー。まさに現代の忍者ではないか。
私が見た、あの薄氷の上を行くような歩行動作は、やはり職業病なのだ。
とても凄い人の周囲を俊敏に動き回り、その人を立てる。
一日のスケジュールを管理して、常に傍らに立ち、時には己を犠牲にしてでも守り抜く。世間の批判から、スナイパーの弾丸から、パパラッチのレンズから。
ボディガード的イメージになってしまった。
話を忍者に戻そう。
巻物を扱うがごとく、スケジュール帳を広げ、吹き矢のような視線で物事を見つめる。
私が頂いたのは本当に、こんぶ飴なのか、まきびしに忍術をかけたモノではないか。
そんな疑惑が浮かび上がるのも無理はない。
意を決して聞いてみた。
「Sさん、職業は秘書ですか?それともマネージャー?」
いつものように、ケタケタと笑い、「塾の講師ですよ。開いたばっかりで、社長と二人なんです。」
想像力は、時に痛い。
深読みは慎むべきである。
aloha shigeru!!!