日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

不測の事態に対して、心中は全く別の方向を向いている時がある 

あの夏、私がエレベーター内で心から思った事

f:id:gakushigeyama:20160313172119j:plain

 不測の事態に対して、心中は全く別の方向を向いているという事がある。

 その事態の持つ重みとパンチ力はとても大きなモノなのだけれど、そんな時に人の心中は意外や意外、「そこかよっ。」と突っ込みを入れたくなるほど、脳天気で無頓着である。

 

 忘れもしない、何年か前の夏の日の事だった。何年前かは忘れた。
 その日、私は午前中で仕事を上がらせてもらい、早々と一人暮らしのアパートに帰った。
 その日の夜に行われる、あるミュージシャンのライブを観に行くためである。
 私はライブのような、自分以外の誰かが主役となるような会はあまり好きではない。
 観ている途中で、主役に対して、嫉妬心がこみ上げるからである。
 「あいつ、やたら、目立ちやがって、これじゃあ俺はただの観客じゃねーか。」、間違いなくただの観客である。
 そんな私が意を決して、チケットを取り、わざわざ会社のシフト調節まで行い、ライブを観に行ったのだから、当時はそのミュージシャンに対して、相当な思い入れがあったのだろう。

 アパートの前にチャリンコを停め、エレベーターで自室のある十階に向かう。
 十階建ての十階。アパートから見下ろす街並みがとても良く、家賃の割にいい物件で、一目見てここに住むと決めたのは二年も前だ。
 気が付けば一人暮らしも三年目、孤独と自立を噛みしめ、外の景色を眺める。

目眩

 その時だった。
 猛烈な目眩が、足下が崩れそうな、何かに捕まらなければ、立ってはいられない。そんな状況である。
 次の瞬間、私は気付く。
 目眩じゃない。地震だと。
 十階ほどの高地で地震を経験した事のない私にとってはなかなかの恐怖で、帰宅するなり、クーラーガンガンで冷やした肉体からも嫌な汗がふき出る。
 なんとか持ちこたえ、自室の真ん中に呆然と座り込む私。
 焦った、とりあえず大きな事にならずに済んで良かった。
 安心したら急に腹が減ってきた。
 ライブまでは、まだ時間がある。
 少し腹ごしらえをしておこう。
 冷蔵庫を開けてみるが、中身は冷気と氷のみ。
 つまりなにもない。
 炊飯器を開けてみる。米があるではないか。
 茶碗にして、約2杯分。おかずさえ調達出来れば十分だ。
 そこでアパートの一階にある”ホカ弁屋”に行くことにした。
 日頃愛用している、”ホカ弁屋”ここで”おかずのみ”を購入する事にしたのだ。
 メニューは決まっていた”チキン南蛮弁当”の”おかずのみ”だ。

遥か遠き 白ご飯 祈るエレベーター内

 意気揚々とエレベーターに乗り込み、”ホカ弁屋”に向かう。
 「地震ありましたね。」などと、店員さんと話しながら、”チキン南蛮弁当”の”おかずのみ”を購入。
 足早にエレベーターに乗り込み、自室へ向かう。
 エレベーターの表示が六階辺りを示した時だった。
 先ほどよりも明らかに大きな揺れが、またしても地震である。
 揺れるエレベーター内、まるで映画のワンシーンのようだ。
 最悪エレベーター緊急停止、十分ありえる。
 この状況下で私がなによりも最初に思った事、それは。
 ”米がない”という事だった。
 手元にある、ホカホカの”チキン南蛮”万が一緊急停止したら、これを白ご飯なしで食べなければいけない、そんな悲しい事があってはいけない。
 米は自室の炊飯器の中だ。
 十階まで残り僅か。
 「持ちこたえてくれ、エレベーター!!!俺はどうしても”チキン南蛮”を”白ご飯”と一緒に食べたいんだ!!!」
 
 心からの祈りが通じたのか、なんとか停まることなく十階に無事到着。
 恐怖と焦りで、クタクタになりながら、炊飯器を開ける。
 一瞬、遙か遠い存在に感じた”白ご飯”がそこに。
 「気合いで持ちこたえてくれた、エレベーターよ、心からありがとう。」「お陰で”チキン南蛮”と”白ご飯”を一緒に食べれるよ。」
 
 人の心中は全くの別の方向を向いている時がある。
 そして、その思いが起きた事態と比べ”的外れ”であればあるほど、記憶の中に刻まれのかもしれない。
 
             aloha shigeru!!!