日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

意外にも世の中は程よいバランスで出来ている、男前でも運転はド下手だ

私の友人にくっすんというのがいる

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 くっすんは大学四回性、教育大に通い、サッカー部に在籍。
 真面目で誠実なとてもいい奴だ。
 律儀な奴だし、おそらく年上からは気に入られる事間違いない。
 私とも年齢は十ほど離れているが、たまにコンパなども一緒に参加するし、可愛がりたくなる後輩の代表と言えるだろう。

  爽やかを絵に描いたような出で立ちで、あだ名を付けるなら、永遠のフレッシュマン。十年立とうと、彼は新卒だ。
 女の子からもきっとモテるのだろう。
 羨ましい限りである。
 私に無いものを全て兼ね備えた青年かもしれない。
 しかし、世の中は程良いバランスで成り立っているらしい。
 くっすんには重大な欠陥がある。
 いや、これを欠陥と呼ぶべきなのだろうか、おそらく、ある人からすれば気にならないし、またある人からすれば大いなる問題点となりうる。
 しかし大学四回生という大人の男の入り口付近に佇む彼には、とても大きな欠陥であり、なんとかして克服したいという思いが強くなるのも無理はない。
 くっすんは車の運転がとてつもなく下手くそなのだ。
 私の聞く限り、尋常ではない。
 彼はこの悩みを赤裸々に私に相談してくれている。
 こんな相談を他人にしてしまう所が、愛される男の所以なのだろう。
 さて、くっすんの運転ド下手伝説は教習所時代から始まる。運転がド下手な人は大概、教習所時代に伝説を一つか二つは持っているものだが。
 鳥取での免許取得合宿に参加したくっすんは初日で脱輪四回、反対車線を走る等の記録を打ち立て、教官一同の間で、注目の怪物ルーキーとなった。
 その後も合宿中に様々な伝説を残したようだが、あまりに恥ずかしいらしく、詳細はまだ聞き出せていない。
 その内、脅してでも聞き出そうと思う。
 シュミレーション訓練では、暴走車のごとく町の人々を引き殺したという話は聞かせてもらえた。
 とまぁ、数々の伝説を打ち立てながらもなんとか、卒業したようだ。
 卒業させてしまう側にも相当問題があるが、学校教育の現場でもヤンキーをさっさと卒業させてしまえば、学園に平和が訪れる訳だし、これは致し方ない。
 

若いって素晴らしい

 晴れて、支配からの卒業を手に入れたくっすん。
 早速父親の車を借り、友人とスーパー銭湯に行くために、車内に乗り込む。
 あれだけ多くの伝説を残しておきながら、未だ自分はやれば出来ると信じている所が若さなのだろう。
 若いって素晴らしい。
 家の駐車場を出て、最初の信号で停車する。
 左折するため、少し左に寄せて停車しようとしたのだろう。
 この少し左、が運転ど下手な人には感覚的にわからない。
 ガードレールに左のボディを完全に擦り続けながらなんとか停車。
 停車する直前、何かが弾け飛ぶような音が周囲に響きわたる。
 本人曰く、ちょっとした爆発音のようだったらしい。
 道行く人は、皆立ち止まり、くっすんの車を唖然と見つめる。
 しかしここでも若さは彼を止める事がなかった。
 若者が心から恥ずかしさを感じたとき、それは怒りとなる。
 「こっち見んなや。」と言わんばかりの表情で車内から人々を睨みつけ、完全な逆ギレ状態で運転続行。
 なんとか友人の自宅までたどり着いた。
 到着して、友人に言い放った言葉は「ちょっと擦ったみたいやわ。」ちょっと、などと平気で言えてしまうのも、おそらく若さなのだろう。
 実際の被害は、ドア部分が完璧に破壊されており、まともな開閉が不可能となっていた。
 そんな状態で銭湯の湯船に浸かり、何を思ったのだろう。
 決してリラックスできる状態ではないはずだ。
 記念すべき第一回目の運転で、すでに大きな勲章を手に入れたくっすん。
 もちろん父親からは相当怒られたらしい。
 

命がけの合流

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 それから僅かながら月日は流れ、ここ最近ついに高速道路に初挑戦したらしい。
 前回のドア部分破壊で、家族一同から運転に対しての、信用を完全に失遂させたくっすん。
 それでも今回くっすんが高速道路に挑戦できたのは、助手席に父親、後部座席に母親と姉という完全な監視下におかれていたためである。
 高速道路に関して、くっすんは大きな不安を抱えていた。
 なぜなら、免許取得合宿が行われた鳥取は高速道路がないため、実際の高速道路走行は行われない。
 代わりに、コンピューターによるシュミレーション訓練が行われるのだ。
 つまり、くっすんは現実の高速道路を走行した経験がない。
 シュミレーション訓練では、合流地点で完全な衝突事故を引き起こすという死亡経験がある。

 

信じるべきは・・・   

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 手の平を汗だくにしながら、ハンドルを握るくっすん。
 助手席では、教官と化した父親が支持を出す。
 合流地点手前の加速区間でスピードを上げる。
 アクセルをしっかりと踏み込み、高速道路への進入を計る。
 その時だ、進入予定の高速道路車線後方から、とてつもないスピードで一台の車が迫り来るではないか。
 とても大きな、悪い奴らが運転してそうな車でした、これがくっすんが後に語った証言だ。
 進入するべきか、判断に戸惑うくっすん。
 助手席から教官が血眼で叫ぶ。「行けー、行けー。」
 後部座席から母親の悲鳴「これは無理、やめときなさい。」
 車内で意見が真っ二つに割れる。
 こんな時、人はどちらを信じればいいのだろうか。
 教官はまだ叫ぶ「だから、行けって。」
 母親の悲鳴も続く「無理、無理。」
 くっすんが父親よりも母親の意見を信じたのかどうかは定かではないが、おそらく彼は自分自身の判断として、進入を諦めた。
 加速区間の終了地点、左端に停車。
 後方から車が来ていたら、完全な事故だった事は言うまでもない。
 高速道路手前、進入に失敗した一台の車。
 沈黙の車内、父親が言う「ここは停めたらアカンやろ。」
 後部座席で母親は、疲れ切った表情。
 姉だけが唯一、平然としていたようだ。
 その後、父親が運転を代わり、なんとかこの修羅場はくぐり抜けた。
 にしても、くっすん曰く、父親はとても温厚で感情の起伏の少ない人らしい、その父親が血眼で発した「行けー、行けー。」父親もよほど必死だったのだろう。
 そしてまた、我が息子に、ここ一番で踏み込む勇気を教えたかったのかもしれない。
 こんなドタバタ劇の一部始終を私に語ってくれたくっすん。
 くっすんは言う。
 「これで諦めてしまったら終わりなんでね、前向きに考えて、来週は気になってる女の子とドライブに行こうと思います。」
 やめとけ、くっすん。

                                 aloha shigeru