日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

”瞬間バカ犬剥製液”

小型犬

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 大抵の小型犬のことをバカ犬だと思っているオレは、今朝も出勤途中に、いつもの場所で、いつものバカ犬に吠えられ、朝から気分が悪くなった。

 小型犬の、あのキャンキャンという吠え方、急にあんな吠えられ方をされたら、人間の一番未熟な部分をもろに指摘されたような気になって、自尊心が崩れ落ちるような気がしてならない。
 

 予想のできない角度とタイミングで吠えてくるもんだから、その対処法もなく、犠牲者の間には無念の思いが募るばかりである。
 そして、あの目、あの黒々とした潤んだ目は、加害者であるにも関わらず、常に被害者の目をしていて、それが故に、人々は殴りつけることも、蹴りつけることもできず、怒りの矛先を別のなにかに向けなければいけないのだ。
 

 おそらく、世の中に渦巻く、なぜだか苛ついている人のほとんどが、小型犬の被害によるものだとオレは考えている。
 

 無茶無茶な理屈だと、全国のチワワ愛好家はオレのことを罵るだろう。日本トイ・プードル協会からは告訴状が届き、オレを法廷に引きずり出すかもしれない。好きにすればいい。
 どうせオレのことを非難できるのも今のうちだ。恐怖におののくまでの間、好きなだけ発狂していればいい。
 

 友人で、発明家の林田に、バカ犬を一瞬の内に”カチンコチン”に固まらせ、瞬間剥製にしてしまう強力な液体をつくってもらった。
 ”瞬間バカ犬剥製液”だ。
 カメラのフィルムケースに、液体を入れてわたして来るところが、林田らしい。見栄えや、発明家らしさ、などは気にしないのだ。

 明日の朝、いつものバカ犬に、この液体を振りかける所を想像するだけで、興奮を抑えきれない。

 

 しかしだ。どうしたことか、つい一時間ほど前、嫁との口論で、怒りが頂点に達したオレは、こともあろうに、この”瞬間バカ犬剥製液”を嫁に、少なくとも一度は愛した女相手に使ってしまったのである。
 

 人間相手にこの液体の効果のほどは懐疑的であったが、嫁は一瞬の内に”カチンコチン”に、憎悪の表情を浮かべたまま、リビングに立ち尽くしている。
 

 オレは半狂乱になり、林田に電話をかけた。
 「そうか、嫁を固めちまったのか・・・」
 「どうすればいい?このままじゃあオレは、一人で生きて行かなければいけない」
 林田は溜息と共に呟いた。
 「キャンキャン騒ぎ、男の自尊心を傷つける」
 「嫁なんて、バカな小型犬と変わらんだろ」
 オレはその慰めに、深く頷いた。
            aloha shigeru!!!