”でんぐり返し”
社長室にて
社長の愛娘を罵ったことで、解雇を告げられたオレは、今こうして社長室に立ち尽くしている。
謝罪のためである。
上司の木崎が、こうなったら土下座しかない、と言うので、人生初の本気の土下座をするために社長室を訪れた次第だ。
社長の愛娘の、その傲慢な働きっぷりは目に余るものがあり、とても正直者なオレは、その女の使えなさを全力で社長にスピーチし、翌日には上司を通してクビを言い渡された。
上司の木崎としては、一応オレを買ってくれているので、いなくなっては困るのだろう。
「土下座したらなんとかなると思うから、心を殺して頑張って」と言われ、今ここにこうして立っている訳だ。
おそらく、十万はするであろう椅子にふんぞり返って、オレを睨みつけるクソ社長。その顔は能面のように無機質で、呼吸すらしていないのではと思わせられる。実際に、顔は少し能面に似ている。
部下のために同席した木崎が言う。
「彼が、社長に伝えたいことがあるようです」
オレはギリギリまで、悲壮感漂う表情を崩さず、床に手をつけた。
「しゃ、しゃちょう!!この度はわたしの数々の無礼を、ど、どうかお許しください!!」
床につけた手をそのままに、己のヘソを見るぐらい頭を深く下げる、と同時に、ぐるりと一回転。
土下座ではなく、でんぐり返し。
左右どちらにもブレることなく、完璧な前方転回を決め、立ち上がる。
「おいっ!!社長さん、娘に小遣いやりたいんなら、家でやってくれ!!」
机に辞表を叩きつけ、でんぐり返しでできた、スーツの皺をのばすオレ。
木崎が横で震えているのが伝わってくる。
社長の口はパクパクと、金魚のように言葉を失っている。
金魚とは比べものにならないほど、間抜けな顔だ。
二人に背を向け、社長室を後にするオレ。
「もお・・終わり~だね♪♪」小田一正の曲がバックミュージックで流れている気がしたが、気のせいだろう。
でんぐり返しに快感を覚えたオレは、次に働く会社でも、同じことをしてやろうと、そのチャンスを虎視眈々と狙っているのだ。
aloha shigeru!!!