芸能界の”菅野美穂” 淡水魚界の”ピラルクー”
お父さんの叫び
その日ボクは、当時付き合っていた彼女と、水族館を訪れていた。
ボクは水族館が好きだ。
ジェットコースターや、お化け屋敷で、無意味に寿命を削られるテーマパークよりも、水槽を縦横無尽に泳ぎ回る魚達を観ている方が心が和む。
その日、訪れた水族館には淡水魚コーナーがあった。その中でも”熱帯雨林に生息する魚達”という一画が、ボクの興味を引きつけていた。
”ピラルクー”がいる。
みなさん、ご存じだろうか?アマゾン川に生息する、あのデッカい魚を。
体長は2メートル近くに及び、全身を鋼のような鱗で守られている魚。アマゾンの代名詞的存在であり、淡水魚界のスターだ。
こういう、おどろおどしい存在のモノに心引かれるボクは、水槽に顔面を擦り付け、”ピラルクー”と睨めっこを、15分ほど続けていたのだった。
彼女はもちろん、淡水魚などには興味なく、イルカが観たいのか、ラッコが観たいのか、知らないが、近くのベンチでつまらなそうに携帯をいじっている。
家族連れが淡水魚コーナーにやってきた。
お父さんの様子がおかしい。完全な千鳥足、顔は真っ赤で、焦点も定まっておらず、はっちゃけた様子。
つまり、ただの酔っぱらいである。
子供たちが二人、まだ幼稚園児だろうか、お母さんに手を引かれ、このおどろおどしい魚の前にやってきたのだ。
水槽に顔面を擦り付けるボクの真横に、同じように顔面を擦り付けるお父さん。やはり、アルコールの匂いが鼻につく。
子供たちは”ピラルクー”を一目見て、泣き出してしまう。
当然だと思う。幼稚園児にとって、”ピラルクー”はただの怪物でしかない。
ギャン泣きする子供たちをなだめようと、”ピラルクー”を指さし、お父さんが叫んだ。
「みてみー!!”菅野美穂”がおるでーー!!」
ボクは我慢出来ずに爆笑、お父さんと目が合い、”やりますねぇ”のシグナル。
その後も「美穂ー!!美穂ー!!」を連発。
子供たちのギャン泣きは止まるわけがない。
そもそも、菅野美穂が誰かも知らないだろうし・・・
最後はお母さんが子供たちに目隠しをして、逃げるように”淡水魚コーナー”を去っていった。
”ピラルクー”を観て、”菅野美穂”。普通は思いつかない。
昼間から酔っぱらっている、中年の発言は想像を遙かに越える。
実は今、パソコンの画面に”ピラルクー”を、手元のスマホに”菅野美穂”を。双方を映し出して比較してみている。
”菅野美穂”は間違いなく美しい。ボクのタイプだ。
しかし、”ピラルクー”と似ているということを、全面的に否定することは出来ない気がする。
見れば見るほどにそんな気がする。
aloha shigeru!!!