日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

”あの頃ボクらは中3で”③

ここから淡路島 

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 淡路島はとにかくデカかった。いや、正確に言うとボクの想像よりも遙かにデカかった。

 島と名の付く場所=孤島というイメージが崩れ落ちた瞬間だった。
 ナカオが言う、「泊まるとこは南淡町ってとこやから。」
 近くにあった、淡路島全域の地図を見上げる。
 宿泊先の南淡町は名前のまんまの、どミナミに存在する。
 ボクたちの立っている場所は北淡で、名前のまんまの、どキタだ。
 つまり今夜布団に入るためには、これから一日かけて、淡路島を縦断しなけらばいけない。
 「これ、やばくないか。端っこやぞ。」豆腐屋早瀬とまっちゃんは、すでに弱気で、どうすんの的な表情だ。
 ナカオは宿泊先を予約した張本人なので、最初からわかっていたのだろう。地図をみても大して驚かない。
 ボクは淡路島のデカさには驚いたけれど、海がある興奮と、知らない土地をチャリンコで走る自分の姿に酔っていたので、これから始まる苦難の道を想像できないでいた。

南淡へ

 股間の痛みもなんとかおさまり、チャリンコに乗り込むボクたち。
 先程の陣形を再度形成し、南淡へむけ走る。
 左手に海、右手に山。地元の交通量と比べ、車はあまりにも少ない。
 国道のアスファルトは遙か彼方まで延び、島の生命線となる大動脈のようだ。
 淡路島の国道は先がみえない。アップダウンがあまりにも激しいからだ。坂を上りきって、ようやくみえる次の道。肉体へのダメージもさることながら、精神的なダメージは、それを更に上回る。
 淡路島の中心街、洲本町に到着。ちょうど目的地までの中間点だが、この時点で、ボクたちの心は半分折れかけていた。
 とにかく4人とも無言である。
 ペットボトルのジュースを何本飲んだのか、数える気にもなれない疲労状態。
 コンビニの駐車場に座り込み、海岸線を見つめる4人。あれほど興奮してみていた海を、今はなんの感情もなく、ただただ見つめる。
 太ももは乳酸でパンパン、ハンドルを握り続けた手も、痺れで震えが止まらない。
 早瀬がレトロチャリンコをみて呟く。「オレ、このチャリンコでここまで来たんやな。変速ついてるのにしたらよかった・・」
 皆深くうなずいた。
 

 ここからアップダウンはさらに厳しさを増し、ボクたちはただもう心を殺し、ペダルをこぎ続けるしかなかった。
 洲本町までは頻繁にあった自販機も姿を消し、休むタイミングもわからず、坂を越え、坂を下り、越えては下り、越えては下りの繰り返し。
 下り坂なんだから、ラクそうと感じるかもしれないが、このインターバル的走行は 、思いのほか身体を疲れさせる。競輪選手に言いたい。「合宿するなら、淡路島がおすすめだよ!!」と。

折れた心

 日が落ちだし、地元を出発してから8時間ほどたった。
 やっとの思いで、南淡町に到着。宿泊先のユースホステルに向かう。
 途中、道に迷ったので、ナカオが地元住民に道を聞き、ボクたちの宿泊するユースホステルが、もう一山超えなければいけないと判明。
 早瀬は泣きべそ状態。チャリンコを変わってやりたい気持ちもあるが、それでは早瀬のプライドを傷つけるし、レトロチャリンコに失礼だ。これこそ本物の優しさである。
 

 最後の山越えを、残る体力すべてぶつけてやり切った。
 フラつく足取りで、チャリンコを宿舎前に駐車、ナカオがフロントに予約を確認しにいく。
 残る3人は、宿舎の玄関に座り込み、はじめて自分で自分を誉めていた。
 ナカオが戻ってきて一言、「まちがえた。ここ別のユースホステルや。」
 表情が夕暮れに染まったことで、その言葉は深刻さを二割増しにみせた。
 完全に心は折れた。ボクは淡路島を孤島と思っていた自分を憎み、孤島ではなかった淡路島をそれ以上に憎んだ。
 とりあえず、来た道を引き返す。誰もチャリンコには乗らず、グダグダと押すことで元の位置まで戻った。
 

 その後、宿舎までどのようにしてたどり着いたのかは、よく憶えていない。あれから16年立ったからではなく、極限の疲労状態と精神状態にあったからだろう。

風呂

 血の滲む思いでたどり着いた、本日の寝床。
 ボクたちの部屋は二段ベットが二つ並び、窓から海が見える部屋。オーシャンビューってやつだ。
 ボクと早瀬はとにかく風呂に入りたくて、疲れで寝転がっているナカオ、まっちゃんを置き去りにして大浴場へ。
 大浴場に向かう途中、館内用のスリッパがあまりにも薄く、早瀬が「このスリッパやる気なさ過ぎるやろ!!」と突っ込みを入れ、久々に笑った気がした。
 湯船に浸かり、疲れ切った身体を温める。
 あれ以上に、風呂が気持ちいいと感じたことは、その後ないかもしれない。それほどまでに湯船の気持ちよさを全身で感じた瞬間だった。
 天井を見上げながら、早瀬が言う。「奇跡の変速、まだ出てないな・・・。」
 ボクは「帰りかもな・・・。」と答え、2人で笑った。
 

 あの頃ボクらは中3で、はじめて自分で自分を誉め、風呂のありがたさを全身で感じたのだった。(続く)