”あの頃ボクらは中3で”ラスト
旅は終わりゆく
旅が終わりゆくその日、ボクたちの目的は一つだった。
タイミングよく、開催されていた”淡路花博”この花の博覧会に世界一大きな花、”ラフレシア”を観にいくことだった。
明らかに南米チックな名前をした世界一大きな花。
世界一大きいというだけで、南米のような気がするが、この”ラフレシア”どうやら、東南アジアの花らしい。
まぁ出身がどこであるか、そんなことはどうでもいい。
中学3年、単純に強さに憧れをもつ年齢である。
”ラフレシア”を観たい理由は、世界一というだけで十分だった。
今回の旅でお馴染みとなった陣形を作り、”ラフレシア”にむけて走るボクたち。
”ラフレシア”に向けての、帰りの道のりを、ボクはほとんど憶えていない。
あまりにも憶えがないので、早瀬に電話をかけてみたところ、「お前が意味不明の、赤いジャージを着てたことぐらいしか憶えてないわ。」と言われ、「お前を真似て買ったんだ!!」と16年越しの告白をしてやりたくなったが、やっぱり恥ずかしいのでやめておいた。
憶えがないので、書きようがない。
ただ、行きに比べ、帰りはかなりラクだった気がする。
知らぬ道を走る初体験よりも、来た道を帰る二回目ってたいがいそんなものだ。
そして、いきのしんどさがあまりに強烈だったため、帰りはマヒしていたのかもしれない。
グッバイ”ラフレシア”
中間点である洲本町を過ぎ、フェリー乗り場に程近い”淡路花博”にたどり着いたのは、たしか二時か三時ぐらい。そこら辺もかなり曖昧である。
花博周辺はなかなかの盛り上がりをみせており、その一画だけ完全にテーマパーク化していた。
人混みの中、”ラフレシア”にむけて一直線のボクたち。
そもそも花に興味などない。ただ世界一を目の当たりにし、そこから世界一たる所以を感じ取りたいだけなのだから。
”ラフレシア”を観たときのボクたちの思いは、周りの人も含め、同じだったに違いない。
「ショッボ~~!!!」
まず、大きさが大したことない。世界一というフレーズをボクたちは拡大解釈し、あまりに大きな花をイメージしてしまっていた。どれだけ大きいと言っても花である。ゴジラと戦ったビオランテほどな訳がないのである。
ちなみにビオランテは花の怪獣だ。
そして、そのディスプレイのされ方もマズい。
円形のガラスの中に、かなり強引に押し込まれており、どう観ても肩身が狭そうなのだ。完全に、そのショボさを引き立てるディスプレイ。
”ラフレシア”としても無念だったに違いない。
グッバイ”ラフレシア”。歌の歌詞にでも出てきそうな台詞を吐き、花博を後にするボクたち。
強さを感じられないのなら用はない。
花博を出て、チャリンコに乗り込もうとした時だった、まっちゃんが衝撃の一事を放つ。
まっちゃんの一言
「フェリー乗り場まで、うちの親に迎えに来てもらわへん??」
予想外の一言に固まるボクとナカオ。早瀬は完全にまっちゃん側で、賛成の顔があまりにわかりやすい。
「でもここまで来たんだし・・。」ボクとナカオは一応反対の意を唱えたが、内心、それでもいいかな、とすでに車に揺られ帰宅している姿を思い浮かべていた。
しんどいとか、苦しいではなく、皆チャリンコを漕ぐことに飽きていたんだと思う。
そんな状況で、ショボい”ラフレシア”を観てしまったことが、飽きに拍車をかける形となったのだ。
まっちゃんが近くの公衆電話からオカンに電話をかける。
速攻で商談はまとまったようだ。とりあえず、船に乗り込み、淡路島を後にするボクたち。
淡路島がみるみる遠ざかる。中学という孤島から、高校という本島へ、そんなボクらの姿を描いているようだった。
こんな終わり方、そして高校生に
2時間ぐらい待っただろうか、まっちゃんのオカンがじぃちゃんを引きつれて現れた。
じぃちゃんのハイエースにチャリンコは積まれ、ボクたちはオカンの運転する、セダンに乗り込む。
威勢良く、チャリンコで旅に出て、帰りは迎えにこいと言う息子と、その友人たちをどう思ったのだろう。
まさかの、セダンで帰宅。そして旅の終わり。
それは同時に高校生になるということを意味していた。
流れる景色を見ながら、色んな意味で切なくなり、「高校いくんやなぁ・・・。」とボクが呟く。
誰の返事もなかったので、みんなを見てみると、三人とも同じように、外の景色を見つめていた。
家の前で降ろされると、カッコがつかないので、少し離れた所に降ろしてもらい、軽くチャリンコを漕いで、無事帰宅。
こうしてボクらの旅は終わったのである。
最後があまりにも締まりのない終わり方だったが、いまだにこの話を誰かにする時、決まってこの部分で笑いが起きる。
長い目で見ればいいオチとなったようだ。
あれから16年が立った。
早瀬とは、高校、大学とほとんど会うことがなかったが、社会人になり再会。今では早瀬の嫁も含めて、月に一度サーフィンにいく関係を築いている。
まっちゃんは、淡路島の影響からか、自然をこよなく愛する男となり、大学卒業後、単身バリに移住。農業をして生計を立てていた。去年、夢やぶれて帰国。今は無職でフラフラしているので、近々飲みに誘おうと考えている。
ナカオは、ナカオとはあれから一度しか会っていない。
高校の途中、駅のホームで偶然会い、確かその時の会話も淡路島のことだった。現在は大手航空会社でパイロットをしているらしい。
やっぱハンパねーな!!ナカオ!!
あの頃ボクらは中3で、16年が立ち、それぞれの道を歩み、そして今も生きている。
aloha shigeru!!!