出会いはアルバイト、バッキーさんとボク
あの頃、学生だったボクも、部活は忙しかったけれど、それ以外の時間は全てアルバイトに注ぎ込んでいた。
飲食店に工場、日雇いバイトで交通整理をしたりと多種多様なアルバイトを経験し、1ヶ月のおこずかいを必死になって捻出していた。
遠い未来なんて考えもせず、間近にある未来を全力で遊ぶための、軍資金作り・・・ 清く、そして懐かしい。
当時、ボクと一瞬だけでも人生を交錯させた、アルバイトで出会った人達は、今頃何をしているのだろう?たまに考える事がある。
矢沢永吉の大ファンで、永ちゃんのライブのためなら、土日だろうと平気で休みをとりやがる中華料理屋の店長。大学の授業だと休ませてくれないくせに、彼女とデートだと言うとソッコーで休みをくれるホテルの支配人。僅かな時間だったけれど、お互いに思いを寄せ合ったバイト仲間のあの娘。
一つひとつの出会いが、現在の自分を作る上でかけがえのないものだったのかもしれない。
しかし、今、そんな人達と街ですれ違っても、お互いに気づくことは、きっとない。
淋しいけれど、時は流れてしまったのだ。
そんな中、未だに交友関係が続いている人もいる。
彼の名をバッキーさんという。
”野球場のグラウンド整備”という、アルバイトとしては、けっこう特異なタイプの職種に就いていた時の先輩である。
このバッキーさん。底抜けにユルく、オーラは皆無。
当時30歳だったバッキーさんは定職に就くことはなく、40歳になった今もフリーターで、そのくせ結婚はしてしまっているものだから、嫁の稼ぎが頼みの綱、完全にヒモ状態なのである。
バッキーさんとは、誕生日が一緒ということもあってか、お互いに運命を感じ、赤い糸みたいなもんで強く結ばれ、あれから10年来の付き合いになる。
バッキーさんのユルさは完全に神懸かっていて、真冬なのにダウンジャケットを定食屋に忘れたり、財布を落として交番に駆け込んだ数は両手では収まらない。
決して悪い人ではなく、いや、むしろとてもいい人なんだけど、とにかくほっとけないダメな大人なのである。
後に嫁になる、当時のバッキーさんの彼女に、一度尋ねたことがある。
「この人のどこがいいんですか?」
こういう質問は普通、真面目にするものではない。
”いいところ”が分かり切っているから出来る質問であって、その質問の裏にあるのは、ただの冷やかしなのだ。
しかし、当時学生だったボクは、かなり真剣に、なぜにこの人なんだ?という疑問を隠すことが出来なかった。
彼女は大して考えるでもなく「こんな人、他におらんも~ん!!」と答えた。
あの時は、二人揃ってどうかしている…と思ったものだけれど、未だにボクとバッキーさんの交友関係が切れないのは、やはり不思議な魅力を持った人だからだと思う。
あの底抜けのユルさ、ダメさ加減は周囲の人々をなんだか前向きにする力がある。そして、ちっさなことにクヨクヨしている自分を身軽にしてくれているのかもしれない。
その証拠に、悩みや辛いことがある度に、バッキーさんを飯に誘う自分がいるのだから。
それを傷の舐め合い、という人もいるかもしれないが、それは違う。
あくまで、ボクが一方的に舐めてもらっているだけで、バッキーさん自身にはなんら傷はない。ボクは勝手に癒されるために彼と会うのである。
”癒し系”なんて、生ぬるいもんじゃない。他人を、いや、ボクを癒すためにこの世に生まれ落ちた方なのだ。
そんなバッキーさんが珍しく深刻な顔をしていた。
先週、半年ぶりにお会いした時のことだ。
どうやら最近、ヘビィー級に重い腰を上げ、やっと仕事探しを始めたらしい。
40で結婚しているくせに無職の男と、30で一応定職に就いているものの未だにお先まっさら、独身のボク。
真昼の喫茶店、アイスコーヒーをチューチューしながらバッキーさんがボクに尋ねる。
「お前は、仕事にやりがいとお金どっちを求めるタイプ?」
これは完全に20代の若者の言葉である。
嫁のいるオッサンの言葉とは思えない。
しかし、そんな言葉を40歳になって真剣に尋ねてしまうところが、やっぱりバッキーさんなのだ。
また一つ、心が救われたような気がした。
「こんな人、他におらんも~ん!!」
やっぱりあなたは、他にはいない人なんだ。
ちなみに、嫁とはとても幸せそうに暮らしている。
アルバイトは腐るほどやって損はないと思う。
量なのか質なのか、そんなことはどっちでもいい。
とにかく若い内、時間の許す限りやるべきだ。
そうすれば、10年来の訳分からん友が、一人くらいは出来るから。
aloha shigeru!!