救出劇、日本の”マカハ”にて
オッサンと原チャリ
ゴールデンウィーク初日、毎年の恒例となる海でのサーフィン&バーベキューを決行するために、京都は葛野浜にメンバーは集合した。
集合したと言っても、この時点で集まったのは、僅か三人。
ボクと、サーフショップオーナーのT氏、そしてT氏の嫁である。
少し寂しい気もするが、例年メンバーは徐々に集まってくるので、最初は、まぁこんな感じだろう。
朝方、海に到着。三人で海岸線を見つめる。
この葛野浜、ビーチが遙か彼方まで延び、天気のいい日はまるでハワイの”マカハ”のようである。
実際にボクたちメンバーの間では、”マカハ”という呼び名が定着している。
日本の”マカハ”で、ゴールデンウィークを過ごす。
サーフィンにバーベキュー、朝から晩まで酔っぱらい、風呂に入ることも忘れ、海水に浸り続けるのだ。
海水&アルコール漬け、これから始まるラリった連休を想像し、ニヤケるボクたち。
と、その後ろを原チャリが一台通り過ぎて行く。
とてもローカルな雰囲気の漂う風貌。年齢はオッサン。間違いなく現地の人だ。
遠ざかっていく後ろ姿。何を思ったか、このオッサン。急に方向を変え、波打ち際に近づいて行くではないか。
ボクたち三人は思った。そっちに行ったら間違いなく・・・言わんこっちゃない。
原チャリのタイヤは砂浜に深く沈み込み、そのパワーは完全に空回り状態。いわゆるスタックである。
どうやらこのオッサン、波打ち際のほうが海水に濡れていることで、砂が硬質になっており、走りやすいと考えたようだ。
海辺に暮らすローカルとしては、あまりに想像力の欠ける行動だと思う。
いくら硬くなっているとは言え、そりゃあめり込むだろ!!
完全な立ち往生状態。
必死にエンジンをふかしているが、砂は巻き上げられ、タイヤは深く沈み込むばかりだ。波打ち際ギリギリで動かなくなった原チャリ、潮は満ちてきているため、足下に海水が迫り来る。
この光景を十分ばかり眺めていたボクらは思った。
「このままじゃ、あのオッサン死ぬな・・・。」と。
いや、オッサンは死なずに済む。しかし原チャリは見捨てられ、”マカハ”の海底で遺跡となる。
全体は苔で覆われ、無数の魚達の住処になる。マフラーからはウツボが一匹顔を出し、サイドミラーに映る自分の姿で、ギョギョギョ!!
こんな感じだろうか。いずれにせよ、原チャリにとっては無念の死に様だ。
ようやく、重い腰を上げ、オッサンの元へ駆け寄るボクとT氏。
T氏の嫁はスマホをこちらに向けて、”九死に一生”を撮影スタンバイだ。
ボクとT氏で原チャリの後ろを押し、オッサンがエンジンをふかす。
タイヤはめり込んだ部分から抜け出し、力なく走り出す。
このまま、砂のない場所まで。ボクとT氏は後方から「ゴーゴー!!」と叫び、必死の前傾姿勢。
まるでボブスレーだ。
約百メートル、ボブスレーで走り抜け、ようやく砂浜を脱出。
オッサンは笑顔を見せることなく、振り返り一言、「あんたら、どっから来たんや?」
T氏が胸を張り答える。「大阪です!!」
オッサンは深く頷き、感謝の気持ちを述べてくれた。
息を吹き返した原チャリが走り去る。”マカハ”の海岸線をどこまでも、どこまでも。
バカンスの始まりに良いことをしたんだ。これできっと、いい波に乗れるはず。
人助けの後の達成感を噛みしめ、これから始まる休日に期待をよせる、ボクとT氏であった。
aloha shigeru!!!