日々楽書~針小棒大~

くだらない事を宇宙規模で

"あの頃ボクらは中3で”④

一夜明けて 

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 その夜はあまりにも早く過ぎ去っていった。

  疲労という名の風呂敷はボクらの全身を包み込み、外から光が入り込む余地はなく、暗闇に落ちゆくばかりだった。
 旅行にきて、これほど早く就寝したことはない。
 トランプも怪談話も下ネタもないままに、中学生の夜が過ぎゆくことは非常に稀だ。

ナカオの朝

 ナカオは朝がとても早い。アスリートである父に小学生時代から鍛えられ、毎朝のランニングが日課となっているからだ。
 ちなみに、このナカオ、小学6年生の陸上800Mにおいて、当時の市の記録を保持しており、その運動神経は筋金入り、友達の間では一時、”バイオ液”の中で育てられたという噂がたったほどである。
 

 あれだけの疲労を抱えながら、その日もナカオの起床は早かった。
 そして起きるなり、海水浴にいこうと言い出す始末。
 そのバイタリティにボクたちはついて行けず、いや、実際海岸まではついて行ったのだが、ナカオが一人海パンになり、素潜りをしているのを遠目でぼんやりと眺めているだけだった。
 

 三月である。海水の温度は、人間が進入してくるのを明らかに拒んでいる温度。
 水中めがねを装着し、素潜りを繰り返す狂気的な姿を見て、3人の思いは同じだったに違いない。「あいつ、やっぱ”バイオ液”の中で育てられたな・・・。」
 震えきって、海から引き上げてきたナカオに”写ルンです”を手渡し、ボク、早瀬、まっちゃんで海をバックに記念撮影。
 この写真は、今でも実家の本棚に飾ってあり、ボクの大切な思い出の一枚だ。
 ナカオがいないのが、かわいそうな気もするが、単独素潜りをしている姿を何枚も収めてやったので、文句はないだろう。
 

 宿舎にもどり、パートのおばちゃんらしき人に淡路島の昔話を一時間ほど聞かされた。「ここら辺は何もない所だけど、本当にいいところよ。」海を見つめ、しみじみと語っていたおばちゃんを思い出す。
 とてもロマンチストなまっちゃんは、現地人のこういう類の話に弱い。おばちゃんと共に海を見つめる後ろ姿は、完全に現地の人。
 早瀬は半分寝ていたと思う。
 

 その後、観光名所となる渦潮を見にいき、その近くの定食屋に入った。ボクと早瀬は天丼を注文。ナカオとまっちゃんは、精をつけておかないと帰りの体力がもたない、という理由から鰻丼を注文。中3にしてはませた判断である。
 

 宿舎に帰る途中、いい感じの池を見つけ、ボクは釣り竿を振る。
 海釣りじゃないのかと疑問に思うかもしれないが、淡路島は野池のメッカで、当時バス釣りにハマっていたボクには憧れの場所だったのである。
 全く魚の気配を感じず、わずか5分で終了。あまりにも潔い。
 近くにイオンを見つけ、夜食を買い込む。
 ボクは衣料品コーナーにあった真っ赤なジャージ”上下セット1500円”を購入。旅に来て、しかも淡路島のイオンで、なぜこんな物を買ったのか、未だにこの旅の七不思議の一つといわれている。
 当時は恥ずかしくて言えなかったが、今だから正直に話そう。
 ボクは、早瀬の着る、上下真っ赤なウインドブレーカーが少し羨ましかった。いい具合に、悪そうに見えるその姿を、羨望の眼差しで見ていたのだ。
 あの頃、友達をマネるというのは、決して口に出したくない、恥ずかしいことだった。

早瀬の意見

 宿舎にもどり、ナカオとまっちゃんが風呂に向かった。
 早瀬と二人で、部屋でゴロゴロして、ボクが何気なく、「お前が女子やったら、オレ絶対エロいことしてるわ。」というと、「いざとなったら、そんなこと出来へんって!!」と言われ、妙に冷静な意見だと思った。
 きっと早瀬は、そんな状況にたたされたことが何度かあったのだろう。
 ボクよりも少し、大人だったんだ。
 その日の夜は、トランプにUNO、恋バナと中学生らしい盛り上がりをみせ、眠りについた。
 明日、帰るのだ。あの来た道を戻り、淡路島を再び縦断し、ボクたちの地元にむけて帰るのだ。
 無事、帰れんのか!?俺たち!!!(続く)